週末の過ごし方

アラン・デュカスが追い求めるレシピ
【センスの因数分解】

2026.01.05

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

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©Matteo Carassale
12月にリニューアルオープンするパーク ハイアット 東京のレストランに『ジランドール by アラン デュカス』が誕生。

アラン・デュカスといえば、世界で30以上の店を構え、80年代より先駆的な発信を続けるレストラン界の巨匠です。過日パリで彼のレストランをいくつか訪れました。ゲストはみなうれしそうで機嫌よく、スタッフはここで働くことに誇りを持っているのが伝わってきました。テイストは異なる店ながら、鮮度をもって人々を喜ばせ、スタッフのモチベーションを保てるのはなぜか。本人に尋ねると、常にそこに注力しています、と言いながらこう続けました。

「ゲスト、スタッフが良い意識の中でハーモニーを生み出すことは大変重要です。しかしそのための方法、つまりレシピはありません。まず適材適所、キャスティングが重要になってきます。また私には、自分の考えをメディアとなって伝えてくれる人物が各所にいてくれることが大きいと思います」

世界中に異なるタイプのレストランを持っているだけでなく、ビスケット、チョコレート、アイスやコーヒー豆などの製造販売部門も立ち上げ成功させています。流れの早いレストラン・ジャーナリズムでトップを走るスターには、哲学を自身に代わって伝えてくれる存在が、さまざまなシーンでサポートしてくれるのです。

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©Bertille Chabrolle
デュカス・パリのエグゼクティブ・シェフとして彼を支えるパスカル・フェロー氏。

その代表的存在が、グループ全体を執り仕切るデュカス・パリのパスカル・フェローエグゼクティブ・シェフです。右腕として知られ、25年を共に働いています。

「彼はひとことで言うと、先見の明を持った人物。グループ内に独自の環境を作り上げ、スタッフが成長し、昇進し、料理のスタイルや地域の異なるレストランで新しい経験ができるようにしています。レストランは4つの大陸にあるので、グローバルに活躍できる職場環境を提供できるわけです。またスタッフが自分のアイデアやメニューを提案することも奨励しています」

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©Thomas Clément
デュカスの料理哲学が学べる『エコール・デュカス』。

積極的にアイデアやメニューを提案しキャリアを積むことで、グローバルな活躍の場が待っている……それはスタッフがポジティブに働きつづけるモチベーションになってくるはずです。先見の明に関して異口同音に語るのは、エコール・デュカスという教育機関でゼネラル・ディレクターを務め、現在AI専門アカデミーを創業したエリーズ・マスュエル氏です。

「彼は決して孤立したプロジェクトを作りません。ひとつの場の個性や所作が持つ力、味の記憶とブランド戦略を見事に結び付けます。そして同じビジョンを共有するチームとして上下関係ではなく、その共通する価値で結び付けています。そういうマネジメントスタイルこそが、チームの強い結束と、揺るぎない献身を支えているのでしょう。彼は常にこう語ります─皿の上に何を載せるかは、自分がどんな世界に生きたいかの意思表示である─と。技術の継承はもちろんですが、それ以上に“意識の継承”が重要なのです」

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©Bertille Chabrolle
閑静な住宅街にある『デュカス・バカラ』。バカラシャンデリア、グラスそしてデュカス・コレクションのアンティークカトラリーと共に料理を楽しめる空間。
Ducasse Baccarat 11 Pl. des États-Unis, 75116 Paris
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©Musiam Paris
ケ・ブランリ美術館内にあり、ガラス張りの店内からはエッフェル塔を間近に望む『レゾンブル』。料理だけでなくバターにいたるまでどの産地の食材か、教えてくれる。
Les Ombres 27 Quai Jacques Chirac, 75007 Paris

料理の作り方を受け取るのではなく、その向こうあるもっと深く広い意識の在り方を学んでほしい。そういう理念が、チーム・デュカスが類いまれなる結束と発展を生むとマスュエル氏は語るのです。

実はデュカス氏の哲学を最も理解すると言われている人物が、東京にいます。パレスホテル東京『エステールbyアラン・デュカス』の小島 景シェフです。

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小島 景シェフが腕を振るうパレスホテル東京『エステール』は、小島シェフが暮らす鎌倉の野菜をはじめ、日本のテロワールを存分に味わえるレストランだ。
エステール by アラン・デュカス 東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京6階

「エステールでは、私が暮らす鎌倉で求めた野菜をお客さまに提供しています。料理とライフスタイルが近い関係や野菜を大切にする姿勢はデュカス氏のDNAにつながっているのでしょう。(エステールでは)自由にやりなさい、と言ってもらいました。それは自分への信頼の表れであると受け止めています。常に努力を惜しまず、一線で活躍するデュカスシェフには、大いに触発されますし、自分もそういう人にならなくてはと思わずにはいられません」

アラン・デュカスの未来を見抜く目、そのビジョンを実現するためのとてつもないエネルギー、妥協を許さない姿勢。仲間たちはそれを間近で見て触発され、さらには与えられた自由やチャンスを糧に理念を体現しようと努力します。実現のレシピは存在しないと言うアラン・デュカス。しかし、レストランが喜びのハーモニーを奏でている秘密は、そんなところにあるのでしょう。

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7月に自身の信念を共有するエッセイの翻訳が出版された。
『アラン・デュカス、美食と情熱の人生』アラン・デュカス著¥3,300 早川書房

「アエラスタイルマガジンVOL.59 AUTUMN / WINTER 2025」より転載

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