週末の過ごし方
自動車の内装、インテリア、ファッション、アート……。
100%メイド イン イタリーの素材
アルカンターラが切り開く新たな可能性。
2026.06.15
1972年にイタリアで設立されたマテリアルメーカー、アルカンターラをご存じだろうか? 社名であり、ブランド名であり、特別な素材の名称でもあるアルカンターラは、1974年に巨匠マルチェロ・ガンディーニがデザインしたベルトーネによるコンセプトカー、ランボルギーニ・ブラボーの内装素材に使用されたことで自動車業界に参入。ランチア・ストラトスHFで初めて量産採用された。以来、独特の質感と並外れた対摩耗性を備えたこの素材は、特にラグジュアリーカーやスポーツカーの進化に寄り添ってきた。
そして、現在、アルカンターラは複数の特許によって保護された独自技術による革新的な素材として、自動車業界にとどまらず、あらゆるモノの表面や形状を覆うために使用されている。
特徴を具体的に挙げると、美しくて柔らかくて軽量。頑強で耐久性があり、光や熱にも強い。通気性に優れ、冬は暖かく夏は涼しい。グリップ力が高く、手入れも簡単だ。機能的な価値だけでなく、触感を軸とした感情的な価値も極めて高い。
ハイテクなプロセスと職人技を組み合わせた100%メイド イン イタリーの素材であり、さまざまな用途に応じて、無数の使い方ができるため、クリエイターのインスピレーションの源泉にもなっている。
実際に使用されているグローバルブランドやラグジュアリーブランドの一例を挙げると、フェラーリのプロサングエ、トヨタのスープラ限定車プラズマオレンジ 100エディション、BMWのXMなどの自動車はもちろん、マイクロソフトのサーフェス プロなどのデジタルガジェット、ヨウジヤマモト、アディダスなどのファッションやスポーツのアイテム、リーン・ロゼの家具など、アルカンターラが使用されている分野は多岐にわたる。
さらにサステナビリティにも力を入れ、2009年から毎年「サステナビリティ・レポート」を自主的に発行。すべての活動を透明性をもって行っていることも特徴だ。
これからますます触れる機会が増えるであろうアルカンターラ。そんな注目素材の今を、ミラノとベネチアで開催されたイベントを通してリポートする。
まずはミラノ。ミラノデザインウィーク2026で、アルカンターラは建築・インテリア・デザインプロダクトを世界中に販売するオンラインプラットフォーム、アーキプロダクツとの4年連続のコラボレートを実現。ミラノが拠点の建築事務所スタジオぺぺのキュレーションによる展示イベント「フォコ リビングノート バイ スタジオぺぺ」で、インテリアにおけるさまざまな使い方が紹介された。
フォコとはイタリア語で火を表し、複数の部屋で構成された「フォコ リビングノート バイ スタジオぺぺ」の会場には、火にインスパイアされたインテリアのインスタレーションが空間ごとに展示された。
インスタレーションの中で、アルカンターラはカーテン、壁紙、ソファの素材として空間を彩っていた。
例えば、カーテンの場合、触るたびにゆらめく姿がエレガントで、素材の質感と陰影がもたらす表情も豊か。空間を演出する重要なパーツとして、場合によってはその場を支配するかのような強い存在感を放っていた。
特にレストランやホテルなどの公共空間で使用される素材は、見た目の美しさだけでなく、耐久性や耐火性、耐光性なども必要となる。
アルカンターラはそれらの基準を満たす加工を施しながら、素材本来の質感や触り心地をキープ。なめらかなものはなめらかなまま、あたたかみのあるものはあたたかみのあるまま、優れた機能性を備えた素材を製作できるのが強みだ。
「フォコ リビングノート バイ スタジオぺぺ」の会場では、才色兼備なインテリア素材としてのアルカンターラの魅力を、さまざまな形で知ることができた。
個人的には今回の展示を通して、インテリアの一部としてのアルカンターラは、毎日見たり触れたりするたびに優雅な気分になれる素材だと実感した。
カーデザインアワード2026の授賞式を、専門誌と共同主催。
同じくミラノデザインウィーク2026で、アルカンターラはイタリアの自動車デザイン専門誌オート&デザイン誌とともに「カーデザインアワード2026」の授賞式を開催した。
カーデザインアワードは、1984年から始まった世界の自動車デザイン界におけるオスカーとも称される賞で、世界有数の自動車雑誌の代表者で構成される国際審査団によって、審査・選出される。ちなみに日本からはカーグラフィックの加藤哲也氏が審査員のひとりとして名を連ねている。
2016年からはコンセプトカー部門、市販車部門に加えて、ブランドのデザイン言語の一貫性と普遍性を製品ライン全体にわたって維持することに最も貢献したデザインチームを表彰する、ブランドデザイン言語部門が新たに設けられた。
会場となったADIデザインミュージアムには、自動車業界の関係者やプレスなど多くの人たちが集結。授賞式イベントは、アルカンターラ デザインアンバサダー兼アドボケートのクリス・レフテリ氏をはじめ、デザイナーやディレクターなどおもに自動車のデザインに携わる4名による「持続可能なインテリジェンス:AI時代のデザイン」をテーマにした特別講演で幕を開けた。
そして、授賞式では、コンセプトカー部門はアウディデザインチーム(コンセプトCプロジェクト)、市販車部門はルノーデザインチーム(トゥインゴE-Techエレクトリック)、ブランドデザイン言語部門(ブランド全体のデザイン言語)は、ジープデザインチームがそれぞれ受賞の栄冠に輝いた。
また、会場では「アトリエ・アルカンターラ」と題したインスタレーションによって、キングストン・スクール・オブ・アートやヨーロッパ・デザイン学院(IED)ミラノ校の学生たちによるプロジェクトを公開した。
ファッションとデザインを横断する視点から、アルカンターラをダイナミックで生成的なマテリアルとして解釈したコンセプトが披露され、アルカンターラのさらなる可能性を感じる展示となった。
授賞式終了後に同会場で行われたアフターパーティではさらなるゲストも加わり、会場は大にぎわい。受賞チームは仲間と祝杯をあげたり、自動車やデザインに携わるもの同士がつながる機会になったり。多くの人たちが授賞式の余韻を楽しみながら、未来に向かって新たな道が開けるような場となった。
アルカンターラだからこそ実現した、ベネチアでのインスタレーション。
アルカンターラは、アートの世界にも活躍の場を広げている。2011年以降、世界中のアーティストや美術館とコラボレーションを重ね、クリエイターやデザイナーが独自のビジョンを自由に表現できる場を提供してきた。
今回はドイツ系ボリビア人アーティストのヴェレナ・メルガレホ・ヴァイナントが、アルカンターラの素材を使用したインスタレーション作品「ウィーヴィング コネクションズ」を制作。2026年3月28日からベネチアの旧サン・ロレンツォ教会で開催の展覧会「タイド オブ リターンズ」で公開されている。期間は2026年10月11日まで。
作品にはアルカンターラによって作られた長い編みひもが使われている。この形状は流れる水と三つ編みの両方を想起させる。そして、深いダークトーンの色彩は、作品に関わる多様な先住民コミュニティとの強いつながりを象徴する。
スクリーンでは、川でテキスタイルを準備し、編み込み、洗う一連の流れが映像で映し出されている。これは編みひもを洗う行為は、あらゆる生命を結び付ける水の力と、変容や浄化、再創造をもたらす精神的なエネルギーであることを表している。
会期中はアルカンターラで作られた衣装を着たパフォーマーによるパフォーマンスも行われる。大きな黒い編みひもを使って映像で映し出されていたことが展示会場で再現されるのだ。編み込みが水の中に入っていくことで、会場のインスタレーションとベネチアの水、そして、地中海、さらには大洋へとつながっていく。これはすべての人間をつなぐ水という概念を象徴する。
今回のコラボレーションは、ヴェレナ・メルガレホ・ヴァイナントが最初のマテリアルのサンプルをアルカンターラから受け取ったときに、素材にほれ込んだことから実現した。とても美しいだけでなく、非常に丈夫。特に素材を引き裂くような行為を行うパフォーマンスには最適だったのだ。
自動車の内装、インテリア、ファッション、アートなど幅広い用途に使われているアルカンターラ。今後もアルカンターラがあったからこそ、実現できたり、表現の幅が広がる事例が数多く出てくるだろう。
100%メイド イン イタリーの革新的な素材が、より豊かで新しい未来を切り開いてくれるのだ。
Photo & Text:Hiroya Ishikawa