紳士の雑学
メルカリ 取締役社長兼COO 小泉文明インタビュー[後編]
2017.08.22
出品数1日100万品以上、月間流通額100億円以上と日本最大のフリマアプリとなった「メルカリ」。ダウンロード数も日米あわせて6500万を超え、国内外で注目を集めるなか今年4月に新社長に就任したのが小泉文明氏だ。メルカリの、そして自身の“いま”を語ってもらった。
山に登るなら自分とは違う登り方をする人が欲しい
今年4月、創業者の山田が会長となり海外市場を、小泉が社長となり国内市場を担当する体制へと移行した。外部では電撃社長交代と騒がれたが、本人しかり、社内しかり「大きな変更といった感じではないかなと。山田はこの1年海外出張が多かったですし、海外と国内、両方の成功のために経営陣で体制面を議論した結果、すんなりと今回の変更になりました」
オフィスに仕切りはなく社長室もない。円を描くような構造の社内にはデスクが連なり、そのなかのワンブースに小泉の席がある。「社長になったからといって、役職どうこうっていうのはピンと来ないんですよね。メルカリを自分が過去に携わった事業よりも大きくすること。単純にその思いだけでやっています」
目標のひとつはメルカリを〝日本発〟の世界的アプリに成長させること。米国のダウンロード数もすでに2500万を超え、英国でのサービスもこの3月にスタートした。「(米国での)競合もいまではかなり減ってきて最終的に勝ち残るのは1社になるはず。山田がグローバルに特化したいま、大きな野心をもってやっていきたいですね」
一方、小泉が担当する国内も実は途上だとも。「知ってはいるものの、使ったことがない人もまだ多い。使い勝手などを再度検証し日本でもさらにメルカリを広げていきたいですね。子会社では新しいアプリもリリースしていますし、開発中の新サービスや構想段階のものもあります。ただ、一方でサービスの成長が速すぎて組織が追いついていないところもある。人材面でもまだ未完成という認識をもっていますね」
4月現在、従業員は約500名(グローバル含む)だが社内には入社予定の新入社員のためなのか、真新しいデスクもちらほら。採用の際は経験者と未経験者のバランスにも配慮するというが、これは小泉の仕事哲学に通じる話でもあった。
「僕は27歳で取締役になりましたけど、いま思えばよくわかってなかった部分もある(笑)。一方でそれがいまにはない強みでもあったと思うんですね。経営も2度目になるとセオリーは見えてきますしノウハウも熟成されてくる。
けれど、経験を重ね、勝ちパターンを覚えることで常識的な行動に終始してしまう恐れもあるんです。意識しているのはセオリーを理解しつつ、それを捨てる勇気をもつこと。だからこそ、新たな挑戦に挑める。違う経験や強みをもっているメンバーの存在が大事で、高い山に登るなら自分とは異なる強みをもった人がいたほうがいい。僕と山田にしても登り方はまったく違いますし、経営陣もチームメンバーもそれぞれに違う強みがあるほうがいいんです」
経営に携わって10年。ハードスケジュールが続くが、まとう雰囲気はあくまでおおらか。聞けば、息抜きは3つ。ひとつに仕事、ひとつにインターネットと語りだし、ツッコミを入れられるや「仕事だと思っていないのかも」と苦笑する。息抜きの3つ目はというと……家族だ。今年のGWは1歳半の娘を連れて、鹿児島を旅した。小泉家を訪れた社員からはこんなエピソードも聞く。「寝かしつけのために、お子さんを抱えて『テレビさん、おやすみなさい』『冷蔵庫さん、おやすみなさい』ってお辞儀しながら家具に声をかけて回っていたんです。そうすると子どもの寝つきがよくなるからって」
パパっ子なんです、間髪入れずに小泉が答えた。それから、日本のビジネスマンがおいそれと口に出せない言葉、けれど非常に強い言葉を口にする。「家族、大切にしてますよ」
プロフィル
小泉文明(こいずみ・ふみあき)
1980年、山梨県出身。早稲田大学商学部卒業。2003年大和証券SMBC(現・大和証券)入社。投資銀行本部にてインターネット企業の株式上場を担当した後、07年ミクシィ入社。取締役執行役員CFOに就任しコーポレート全体を統括。退任後はベンチャー企業を数社支援し、13年12月メルカリに入社。14年同社取締役に就任。17年4月取締役社長兼COOに就任。趣味はスポーツに加え、月に5000円~1万円分買い込むほどの雑誌好きでもある。「建築、ファッション、スポーツ、アートから少々オタクっぽいものまで、たくさんベッドサイドに置いてあるんです。雑誌のあの質感が大好きで。寝る前にペラペラめくる時間が楽しみなんです」
Photograph:Kentaro Kase
Text:Mariko Terashima