紳士の雑学

海の味のする、アイラモルトの強烈な個性を楽しむ
目白田中屋店主に聞くシングルモルト 第3回 

2017.08.23

小松宏子 小松宏子

海の味のする、アイラモルトの強烈な個性を楽しむ<br>目白田中屋店主に聞くシングルモルト 第3回 

ピートの煙と海のだしがアイラ島モルトを造る

「どうですか、このスモーキーな風味。飲んだあとに、ここのところにふわっと煙の香りが残るでしょう」と、のどの下あたりを指さして、幸せそうに栗林幸吉さんは言う。「スコットランドの西岸沖に大小数百の島が連なるヘブリディーズ諸島の最南端に位置するアイラ島で造られるアイラモルトには、こうした独特の風合いがある。「ちょっと慣れてくると、飲み込んだあとに、塩けを感じるでしょう。まるで“だし”のような。ピートのだしが効いているんですよ」とも。それは、アイラ島を覆う特別なピート(泥炭土壌)に由来する。シングルモルトを造るには、発芽させた大麦をピートで焚(た)いて乾燥させる工程が不可欠だが、アイラ島のピートは海藻を含んでいるため、ウイスキーに独特の海の香りがつくわけだ。

アイラ島はスペイサイドに並ぶ、シングルモルトの聖地。ワインやほかの酒からは得ることのできない、ピーティ(深みを伴った土っぽい香り)でスモーキーな風味。これこそが、アイラ島のシングルモルトが世界中のファンをとりこにしてやまない理由である。

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最も重厚でリッチなアイラモルト「ラガヴーリン」。スコッチ通の夢。

淡路島とほぼ同じくらいの大きさのアイラ島には8つの蒸留所がある。そのなかから代表的な2つの蒸留所の酒を栗林さんに挙げてもらった。
「まず『ラガヴーリン』。名前がいいでしょう。響きがいい。世界中のモルトファンを惹(ひ)きつけてやまない酒です。強烈なピートの香りとスモーキーなテイスト、さらに深い甘みと驚くほどなめらかなテクスチャー……。この味わいを知らずして、シングルモルトを語るなというほどの強烈な個性の持ち主です」

ラガヴーリンの名は、ゲール語で“水車小屋のある湿地帯”という意味だとか。蒸留所はその名が表すとおりの、上質なピートが採れる湿地帯の上にある。仕込み水となる湧き水自体にもピートが溶け込み、これがまた、強烈な個性の源になっている。しかしながら、ラガヴーリンの魅力は、こうした風土が及ぼす影響のほかに、手間を厭(いと)わぬ酒造りのスピリットのたまものでもある。なにしろ蒸留時間はアイラ島のなかでも最長で、発酵にも熟成にも贅沢(ぜいたく)に時間をかける。だからラガヴーリンは16年熟成のものが主体だ。初心者にはちょっとハードルの高い一本だが、ウイスキーを愛する者なら必ずや好きになる、究極のブランドともいえる。

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エレガントで爽やかなアイラモルトの女王

ラガヴーリンが男性的な個性の強いアイラモルトであるとすると、アイラモルトの女王と讃(たた)えられるのが「ボウモア」だ。1779年に創業したアイラ島最古の蒸留所の産である。
「こちらは、ラガヴーリンほどのインパクトはないけれど、スモーキーなテイストの奥に花のような香りや蜜のような甘みが隠れ、バランスのとれた飲みやすい一本に仕上がっています。潮風を感じさせる爽やかなのど越しがなんとも心地いいですね」と栗林さんは言う。

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今では多くの蒸留所が製麦(穀物を糖化させるために大麦を発芽させて発芽大麦を作る工程)は専門業者に任せることが多いが、ボウモアではいまでも自家製麦芽にこだわり、4割を自家製でまかなっているという。さらにそれを、ピートが溶け込んだ土色に帯びた川の水で仕込む。ウイスキー造りの長い歴史と伝統を担っている蒸留所ともいえる。

こうした強烈な個性をもつアイラモルトは、現在のシングルモルトブームを牽引(けんいん)する存在であると同時に、ブレンデッドスコッチには欠かせない原酒としても重用されている。つまり、アイラ島がなければ、現在のウイスキーの魅力は半減しているといっても過言ではない。

<第2回はこちらから>

<第4回につづきます>

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki

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