紳士の雑学

シェリー樽で熟成、高貴なフルボディーに育つグレンドロナック
目白田中屋店主に聞くシングルモルト 第4回

2017.08.28

小松宏子 小松宏子

シェリー樽で熟成、高貴なフルボディーに育つグレンドロナック<br>目白田中屋店主に聞くシングルモルト 第4回

熟成させる樽の材質で大きく仕上がりが変わるシングルモルト

「シングルモルトは、生まれも大事だが育ちがいちばん。風味の6~7割は熟成で決まると言われています。糖化した麦汁を発酵させたものを蒸留して得た液体は当然ながら無色透明、生まれたての「赤ちゃん」の状態です。それをウイスキー特有の琥珀(こはく)色にし、風味豊かな「大人」の液体に仕上げるのが樽(たる)熟成という工程=育ちです」と栗林さん。十数年からときに数十年間に渡って、樽の中で静かに熟成されていくことを考えると、ウイスキーの製造期間のほとんどの時間が熟成に費やされると言ってもよく、味わいや香りに及ぼす影響がいかに大きいかということがわかる。

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長い熟成期間のなかで、樽の中で何が起こっているのだろうか。まず、長時間かけて寝かせることで蒸留直後の不快な香味成分が除かれ、まろやかで上品な酒質になる。次に樽の木材から香り成分であるバニリンやタンニンなどのポリフェノール、色素成分などが溶出し、透明だった液体に、さまざまな風味や色が付加されていく。また、アルコールと水の分子が結合し、円熟味や旨(うま)みが増加するという現象も起こる。そこで、どんな材質の樽に詰めるかが重要になるわけだが、18世紀以降、英国で大人気だったシェリー酒の空き樽は、当初は密造蒸留酒を隠すのに便利な単なる容器として扱われていたが、いつしか、ウイスキーに魅惑的な風味を与えることがわかり、多くの蒸留所が、スペインから運ばせたシェリー樽を使うようになる。ちなみに1986年スペインのEU加盟でシェリーが樽に入ったまま国外輸出されることが禁止されたが、それ以降もウイスキーのためにわざわざシェリーをスペイン国内で一定期間熟成させたあとに、その空き樽を輸入している蒸溜所もいくつかある。それだけシェリー樽の風味は捨てがたい魅力があるのだ。

「見てください、グラスの中で揺れる、この赤みがかった琥珀色、これが、シェリー樽で熟成させたシングルモルトの特徴です。そして口に含めばリッチでマイルド、ドライフルーツのような甘美な味わい、最後はチョコレートを食べたあとのような余韻に満たされる。シェリー樽で熟成させるシングルモルトの代表格がスペイサイドのマッカランですが、その特徴がより色濃く仕上がっているのが、スペイサイドとハイランドの境界線上にある『グレンドロナック』蒸留所で造られるシングルモルトです」

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グレンドロナック蒸留所の特徴は、頑(かたく)なに伝統製法にこだわること。例えば1996年まではフロアモルティングを行い、ピートの効いたモルトを生産していた。また、石炭の直火焚(だ)きを最後まで行っていた蒸溜所でもある。近年までは、大部分をティーチャーズやバランタイン17年などのブレンドに使用されてきたが、 2008年にベンリアック・ディスティラリー社がオーナーとなり、その個性が改めて見直されている。限定品のリリースを多く出すなど、ウイスキーファンの間では、いま注目の蒸溜所のひとつだ。

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グレンドロナック18年はオロロソシェリー樽を100%使用した、馥郁(ふくいく)たる香りと、口の中で次第に変化する複雑で豊かなフレーバーの長い余韻が心に残る。12年ものには、オロロソシェリーの樽と極甘口に仕上がるペドロヒメネスシェリー樽の両方の樽で熟成するなど、シェリー樽にひとかたならぬこだわりを有している。シェリーとはスペインのアンダルシア地方で造られる特殊な酒精強化ワインの一種だが、醸造法や熟成法などの違いにより、さまざまなタイプがある。オロロソはアルコール度数が高め、ペドロヒメネスは極甘口に仕上げるもので、それぞれ、樽にも独特の風味がつくのだ。

<第3回はこちらから>

<第5回につづきます>

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki

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