腕時計

時計評論家が選ぶ3本 Vol.1 ジャーナリスト 笠木恵司さん

2017.10.04

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編集プロダクション「チーム・スパイラル」の代表である笠木さんは、編集および取材記者として30年以上の経歴を誇るベテラン。大学教育や資格なども専門分野としているが、時計についての取材・執筆を精力的にこなしてきた。なかでも高級機械式時計に関しては、確固たる技術を確立したグランメゾンの作品を中心に、毎シーズン定期的にチェックしつづけているという。その理由は欧州を中心に発展した機械式時計の深い歴史を凝縮させた面白みがあるからだと語る。

【BEST1】完璧な美と遊び心の素晴らしき融合

「今季発表されたモデルのなかで、特に素晴らしいと感じたのは、やはり老舗メゾンのものでした。なかでもA.ランゲ&ゾーネの“ランゲ1 ・ムーンフェイズ”は素晴らしい完成度を実現させており、実物を見てさらに傑作との思いを深めました」

そもそも笠木さんは、“ランゲ1”が初めて登場した1994年から継続的に注目してきたと言う。アウトサイズデイト(大型分割式日付表示)や、時分計をオフセンターに配置した “ランゲ1”は、機械自体のクオリティーもさることながら、傑出した美観を完成させており、笠木さんに衝撃的ともいえる感動を与えたのだ。

「それぞれの針が運針によって重なることなく端正にレイアウトされた機能美あふれるダイヤルは、ある意味で究極のもの。それゆえに、2015年にムーブメントを新開発して発表された第2世代のモデルも、ダイヤルデザインはほとんど変わっていません。しかも今季の新作では、特別なムーンフェイズ機構を搭載したということで、実物を見る前から気になっていたのです」

完成された作品に新しい機能などのアレンジを加える場合、全体のバランスを損ねてしまうこともある。しかし“ランゲ1・ムーンフェイズ”は、卓越した美観を維持しながら、気品あふれる遊び心まで添えた傑作に仕上がっていると笠木さんは評価する。

「“ランゲ1”は過去にムーンフェイズ機構を載せたモデルがありました。しかし、今回はそれを超える新しい機構が開発されています。天空を表すディスクの上に月をかたどったゴールド製の回転板を合わせており、それぞれ独自に動くことが際立った特長なのです。この月の背後に配置された天空ディスクは1日24時間で一回転します。星空のほかに星のない青空を描いた部分があり、昼夜を表示する機能を持っているわけです。塗装なども含めて、随所に手の込んだ作りが施されており、この時計の魅力を増幅させています」

ドイツ時計の伝統をしっかりと受け継ぎながら、完成された美をさらに熟成させ、ロマンチックな遊び心まで加えた新たなる“ランゲ1・ムーンフェイズ”。450万円(ゴールドケースの場合)は確かに高額だが、そのスペックを考慮すれば納得のプライスではないかと笠木さんは付け加える。

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A.ランゲ&ゾーネ ランゲ1 ・ムーンフェイズ
ドイツ、ザクセン高級時計の歴史をいまに伝えるA.ランゲ&ゾーネ。その代表モデルが“ランゲ1”シリーズだ。2002年に初登場したムーンフェイズモデルの最新型がこの“ランゲ1 ・ムーンフェイズ”。月の満ち欠けが一巡する期間は29日と12時間44分3秒。“ランゲ1 ・ムーンフェイズ”は、この周期の誤差が一日分の累積となるのに、122.6年要するほどに極めて高精度。ピンクゴールドケース、38.5㎜径、手巻き。\4,500,000/A.ランゲ&ゾーネ

【アンダー30】必要十分な機能性と大胆なデザイン性に注目

時計ジャーナリストとして長年の経験を持つ笠木さん。もちろんA.ランゲ&ゾーネのような高級メゾンのほかにも、さまざまなブランドの時計を毎シーズンチェックしている。そこで機械式時計ビギナーが選ぶべき、今季のベストエントリーモデル(30万円以下)は何かを尋ねてみた。

「やっぱり機械式であるならムーブメント自体を楽しめるモデルがいいと思います。普段使いとしてのスペックを備えていながら、メカの魅力を同時に楽しめるものが理想でしょう。ハミルトンの“ジャズマスター オープンハート”は、ダイヤルに大胆なオープンワークを施しており、テンプや歯車などがのぞいて見える意匠がポイント。ダイヤルからメカが見えるデザインは今では珍しいとはいえませんが、カットアウトのスタイルが独特で魅力的なのです。しかも今季モデルは新ムーブメントを搭載して、前作よりもケース径を拡大させた42㎜サイズ。スーツなどの袖口にも迫力が加わるデザインだと思います」

ラージケースによって視認性もアップしながら、約80時間のロングタイムリザーブなど、普段使いとして満足できるスペックを備えた“ジャズマスター オープンハート”。本格機械式にしてデザインも非常に個性的。この内容でアンダー12万円のプライスは、まさにお買い得だと笠木さんは断言する。

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ハミルトン ジャズマスター オープンハート
アメリカで生まれ(現在はスイス本社)、高精度な鉄道時計を生み出したことや、世界最初の電池駆動ムーブメントを開発したことでも知られるハミルトン。“ジャズマスター オープンハート”は、同社の伝統である高品質な機械式ムーブメントを搭載した3針モデル。大胆にカットアウトを施した文字盤から、機械式時計の“ハート”をのぞくことができる。SSケース、42㎜径、自動巻き。\111,000/ハミルトン

【愛用】使いやすさを備えた愛すべきアラーム時計

そんな笠木さんが愛用する時計は、レビュー・トーメンの“クリケット”だ。1947年にデビューして注目を浴びたヴァルカンの“クリケット”と同様、アラーム機能内蔵の機械式時計だ。クオーツのアラームが発するような電子音ではなく、ゼンマイ動力によって小型ハンマーが小刻みに振動して発するジーというメカ式のアコースティックな音質が最大のポイントだ。

「ちょうどこれを購入した2000年ごろは、アラームやミニッツリピーターなど“鳴り物”系の時計がはやっていた時代。自分に合った音の出る時計を探していたのです。打ち合わせの帰りにたまたま立ち寄った時計ショップでこの“クリケット”を見つけ、思わず衝動買いしてしまいました。初代モデルを継承するクラシックなデザインながら、日常的な防水機能も備えています。アラームという実用性に加え、僕の細い手首にもフィットする35㎜ケースが気に入っており、ずっと使いつづけてきました。取材中にアラームを鳴らすなどの失敗もありましたが、そういったエピソードも含め、大切な一本となっています」

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選者プロフィール●笠木恵司/ジャーナリスト。教育や資格関係、それに時計を専門分野に取材・執筆するジャーナリスト。日本における機械式時計ブームの黎明期である1990年代半ばから、国際的な時計展示会を中心に取材を続けてきた。『腕時計雑学ノート』(共著/ダイヤモンド社)など著書も多数。

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Text: Tsuyoshi Hasegawa(ZEROYON)
Photograpy:Katsunori Suzuki

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