腕時計

時計評論家が選ぶ3本 Vol.2 ライター 柴田 充さん

2017.10.18

時計評論家が選ぶ3本  Vol.2  ライター 柴田 充さん

ファッション誌やカルチャー誌にてメンズスタイルをはじめ機械式時計の記事を執筆している柴田さん。毎年行われるスイスでの展示会にも足を運ぶ実力派ライターだ。メンズファッションにも造詣が深い人物が選ぶ今季のベストモデルは、繊細なエレガンスと男性心をくすぐる優れたギミックをもつ時計。複合的な美を放つ時計だからこそ、いつまでも見飽きないと評価する。

【BEST1】時間を掛け磨き上げた“熟成美”が大きな魅力

“ムッシュー ドゥ シャネル”は、2016年に男性専用としてリリースされた特別なウオッチ。腕時計はメカニカルな構造の完成度に加え、仕上げやルックスを重視するという柴田さん。男らしくも繊細な仕上がりが特に素晴らしいと語る。

「去年のデビュー時からいい時計が出てきたなと思っていました。そして今季はプラチナケースにエナメル文字盤を載せたモデルがリリースされ、さらに美しさに磨きを掛けてきました。シャネルの時計は“J12”も同様でしたが、時間を掛けてじっくり熟成させて作り上げるところにひとつのポイントがあります。プロダクトとしての完成度はもちろん、そういった製作姿勢にも共感するところが多いですね」

シャネルの時計に関しては、“J12”がデビューを果した2000年から興味をもっていたと語る柴田さん。

「“J12”も複雑な魅力を兼ね備えていました。それはデザインを手がけたジャック エリュさんの意図する部分だったと思うのですが、彼はオートバイやボートをカスタマイズして楽しむような人物。非常に男らしいライフスタイルを実践していながら、手がけるアイテムはすべて中性的ともいえるエレガンスをまとわせています。それもある意味マドモアゼル・シャネルのDNAだと思うのですが、今回の“ムッシュー ドゥ シャネル”にも同様のフィロソフィーを感じます」

扇状に反復運動を繰り返すレトログラード針や回転ディスクで示すジャンピングアワーといった複雑機構は、男性好みのスペックと言えるもの。対して釉薬を敷き詰め高温で焼き上げつややかに仕上げた「グランフー エナメル」による静謐な文字盤は、どこか女性的な繊細さを匂わせる。柴田さんはそんなつかめるようでつかみきれない変幻的な美しさに引かれていると言うのだ。

「僕はファッション誌にも多く寄稿していることから、以前『この“ムッシュー ドゥ シャネル”に似合うコーディネートは?』と尋ねられたことがありました。しかし、究極に研ぎ澄まされた美をもつ時計やアクセサリーは、スタイルを選ばないモノがほとんど。カルティエの“タンク”などがそのいい例です。この“ムッシュー ドゥ シャネル”も、スーツはもちろんジーンズスタイルにも美しくマッチするはずです。ただひとつ、装いの完成度を上げるポイントは、そのアイテムが本当にお気に入りのものかどうか。真に愛用することで、本物のアイテムは持ち主に応えるものだと僕は思っています」

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“ムッシュー ドゥ シャネル”
シャネルが5年を掛けて作り出した、機械式時計のシーンを開く新たなウオッチ“ムッシュー ドゥ シャネル”。6時位置の小窓で“時”を表し、その上部に“秒”サークルを配置。“分”表示は扇状に反復運動を繰り返すレトログラード針にて表示する。マスキュリンを象徴するディテールとしてバックルとリュウズにデザインされたライオンモチーフも特徴的。プラチナケース40㎜径、手巻き。世界100本限定。\6,950,000/シャネル

【アンダー30】機械式時計のエントリーモデルとして理想の選択

時代によって表層のトレンドは次々と変化を見せても、腕時計の文化そのものが廃れることはないと柴田さんは考える。それが証拠に、一時期“若者の時計離れ”が喧伝されてはいたが、またぞろ腕時計が新鮮なアイテムとして、再び若者の間で脚光を浴びつつあると言う。

「現在、若い人の間でトレンドとなっているのは廉価なクオーツ式のようですが、とは言え突飛なデザインのものではないところがポイントです。例えば大ヒットを飛ばしたダニエルウェリントンの時計などは、クラシックウオッチの様式をしっかり踏襲したデザイン。そういったモデルを入り口に、機械式時計の魅力に気付きファンになる人も少なからずいると思います」

そんな機械式時計予備軍とも呼べる人々に贈りたいと考えるのが、ティソの“エブリタイム スイスマティック”だ。

「この時計はかつてリリースされ話題となった“スウォッチシステム51”をさらにアップデートさせた機械を載せています。生産工程すべてをフルオートメーションにて作り出すだけでなく、従来100個以上必要とされたパーツ点数を、効率化によりなんと約半分にまで抑えているのがポイント。ゆえにプライスも驚愕のもの。純正スイスメイドの機械式腕時計にして、アンダー10万円を大きく下回る4万円台?。これなら財布のヒモの堅い若者の心にも響くのではと思います(笑)」

しかもティソは1853年創業のれっきとした老舗。クオリティーの確かさにおいて、現在はやっている廉価なクオーツ時計を連発する新興ブランドとは、そもそも格が違うのだ。

「ティソは日本ではあまり知られていないのが玉に瑕(きず)。しかし、ヨーロッパでは高級な時計ショップをはじめスポーツショップなどでも取り扱われている実力派ブランド。また、MOTO GPやツール・ド・フランス、さらにはラグビーやアイスホッケーなど、各種スポーツ競技の公式タイムキーパーを務めたりと、確実に地位を築いてきた名門です。もっと普及して当然のブランドだと考えています」

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ティソ“エブリタイム スイスマティック”
洗練された都会的デザインで人気を博した“エブリタイム”に、初の自動巻きムーブメントを搭載したのがこのモデル。バウハウスデザインを彷彿させるミニマルなバーインデックスなど、スマートな機能美がポイントだ。しかもパワーリザーブは最大90時間という長時間を誇る。SSケース、40㎜径、自動巻き。\46,000~59,000(ケースやベルトの素材による)/ティソ

【愛用】繊細さと男らしさの絶妙なるバランス

高級機械式時計やメンズファッションに関する執筆を日々手がけている柴田さん。現在のお気に入りウオッチは、カルティエの1950年代製とおぼしき“タンク サントレ”だ。昔から憧れていた名品を、つい最近手に入れることができたのだと紹介してくれた。

「本当のことを言うと、最初は“タンク アメリカン”が欲しかったんです。1980年代にそれがはやったこともあって、ずっと憧れを感じていたから。ただ、そのときは値段の問題もさることながら、ちょっと自分がモノに負けてしまいそうな印象もあって見送っていたのです。ただ、50歳台になったいまなら気負わず身に着けることができそうという思いに加え、ちょうど“タンク”生誕100周年のタイミングも近付いていたこともあり、再び気にするようになっていたのです」

そもそも縦長フォルムの“タンク アメリカン”に憧れをもったのは、男らしいエレガンスを感じたから。

「オリジナルの“タンク”も十二分に美しいのですが、ほんのわずかにきゃしゃというか女性的なイメージ。そこへいくと“タンク アメリカン”や“タンク サントレ”は、オリジナルの美観をしっかりキープしつつ、ほどよい力強さもあって非常に僕好み。去年、パリの時計ショップをのぞいたときに見つけて、ついに購入することができました」

“タンク”シリーズのなかでも名品として知られる“サントレ”は、縦長フォルムによるレクタンギュラー型が特徴。1921 年に誕生し、“アメリカン”の原型になったもの。特に“サントレ”に関しては、程度のよいビンテージが世界的にも数が少なく、それだけに思い入れもひとしおだと柴田さんは語る。

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選者プロフィール●柴田 充/ライター。1962年東京都生まれ。コピーライターの後、出版社勤務を経てフリーランスのライターとなる。高級機械式時計の世界に踏み込んだのは、かつて小学館が発行していた雑誌「ラピタ」で記事製作を担当して以来。現在は「アエラスタイルマガジン」のほか、「レオン」「MEN'S CLUB」にて活躍。時計のほか、ファッションや車にも造詣が深い。

掲載した商品はすべて税抜価格です。

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Text: Tsuyoshi Hasegawa(ZEROYON)
Photograph:Katsunori Suzuki

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