美しい時計

「腕時計、基本のキ」第1回/機械式時計の仕組み

2018.01.24

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建築が内部空間をもつ芸術とするなら、腕時計は内部に精密機械を備えた宝飾品と言い換えられるだろう。ビジネスマンがタイバーやカフリンクス以外に身に付けられる唯一のアクセサリーと解釈する人もいる。そのせいか、日本では1990年代後半から機械式の高級時計が急速に人気を高めてきたが、それだけに歴史やメカニズム、ブランドや種類といった世界観を十分に把握していない人も少なくないのではないだろうか。いまさら気恥ずかしくて誰にも聞けない、腕時計に関する基礎知識をわかりやすく紹介していこう。

①機械式時計の基本的な仕組み

「調速脱進機」がメカニカルウオッチ=機械式のキモ

工業製品の技術革新は不可逆的で後戻りしないと考えられてきたが、時計の世界だけは例外といっていい。長い歴史をもつ機械式時計の精度をはるかに凌駕するクオーツの腕時計が1969年に誕生。ゼンマイと歯車で動く旧来のメカニズムはいったん衰退しかけたのだが、80年代半ばごろから高級時計として劇的に復活。それ以来、機械式と電気・電子式という2つの分野で絶えざる進化が続いており、実に多種多彩な時計が発表されてきた。

現在では標準時刻電波やGPS衛星の電波を受信して自動修正する時計やスマートウオッチなども普及しつつあるが、それでも時計を大別すれば、機械式とクオーツということになる。

この2つの方式の最もわかりやすい違いは、機械式時計はゼンマイで動き、クオーツ時計は電池または光発電による電気で動くということだ。これは針などを駆動するエネルギーの違いというだけでなく、1秒をどのようにカウントするかという時計の基本中の基本にも関わってくる。

機械式時計の場合は、前述したように巻き上げたゼンマイがほどけようとする力を利用しているが、そのままでは瞬時に元に戻ってしまう。この力を制御して正確に時を刻む仕組みが、機械式で知っておきたい最重要なポイントだ。これをひとまとめに「調速脱進機」と呼ぶが、そのうち時計の精度にかかわる「調速」を担う機構がテンプである。車輪のような形状のテン輪(バランスホイール)と軸、その軸に巻き付けられた細くて薄い金属の帯のようなヒゲゼンマイで構成されている。このテン輪を回そうとすると、すぐにヒゲゼンマイの力によって元の位置に引き戻される。この動きが、ガリレオ・ガリレイが発見した「振り子の等時性」をもたらすことになるわけだ。

ただし、そのためにはテンプを振り子のように動かす力を加えてやらなければならない。動力源となる主ゼンマイの回転エネルギーを伝達する歯車の列の最後に、特殊な形状の歯をもつガンギ車がある。その先にテンプと絡んだ2つのツメをもつアンクルがあり、ガンギ車はそのツメの片一方を蹴るように押す。それによってアンクルが傾いてテンプを振ることになるが、同時にもうひとつのツメがガンギ車に噛んで回転を止める。振られたテンプはヒゲゼンマイの力で元に戻るが、この時にアンクルも反対側に傾き、ガンギ車の歯を1つ送り出すことになる。ごく簡単にいえば、歯車の回転運動をテンプの往復振動に変換する仕組みであり、これを「脱進機」と呼ぶが、その繰り返しによって機械式時計はチチチチチと細かく正確に秒を刻むのである。

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右端のゼンマイが動力源。そのほどけようとする力を制御するのが左側の調速脱進機(てんぷ、アンクル、がんぎ車)。ゼンマイが入っているケースを香箱または1番車と呼び、2番車に時・分針、4番車に秒針が付く。 画像提供:セイコーウオッチ

テンプの往復振動は「心臓の鼓動」

近年はケースバックをシースルーにした機械式時計が常識的であり、ダイヤル側からもテンプの動きが見られるように窓を開けたオープンハートやスケルトンのモデルも増えてきた。これらをじっくりと見ればメカニズムは理解できるはずだが、活発に収縮を繰り返すヒゲゼンマイと左右に振れるテンプの動きは、まさに時計の心臓といっていい。これこそがクオーツにはない、機械式時計特有の醍醐味といえるだろう。

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クレドール「GBBD961」。美しい桜の彫り模様が施されたスケルトンのダイヤルからムーブメントの動きを見ることができる。手巻き、ケースは18Kホワイトゴールド。直径38.0㎜、厚さ7.3㎜。4,400,000円 問い合わせ先/セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-302-061

注意しておきたいのは、このテンプの「振動数」だ。周波数などの振動は往復を1単位としてHz(ヘルツ)で数えるが、時計ではテンプの片道でガンギ車の歯が1つ送られるので、振動数も片道でカウントされてきた。懐中時計のころは5〜6振動で1秒が一般的。つまり秒針は1/5〜1/6秒を刻んで進むことになる。

ところが近年は8振動が増加。さらには10振動、12振動、なかには20振動というウルトラハイビートなモデルも発表されている。高速回転するコマが倒れにくいのと同じで、姿勢の変化など外部からの影響を受けにくくなり、高精度で安定するとされている。ただし、テンプの振動を早めるためには、ゼンマイのパワーアップや調速脱進機の緻密な調整が必要になるほか、部品も摩耗しやすくなる。

つまり、ゼンマイを動力源として歯車を組み合わせた機械式では振動数を高めるにも限度がある。それを一気にブレイクスルーしたのが、水晶の高速振動を利用したクオーツなのである。

ここで話は戻るが、ヒゲゼンマイを備えたテンプによる時計を初めて製作したのは、オランダの数学・物理学・天文学者、クリスティアーン・ホイヘンス。1675年のことだが、その基本的な構造は300年以上にわたって大きく変わることはなかった。ところが、20世紀末から時計の心臓部の革新が活発となり、最近ではヒゲゼンマイ付きテンプの原理から脱した、まったく新しいメカニズムの調速脱進機をゼニスが発表している。振動数も1秒30振動、15Hzという並外れた超ハイビート。機械式時計はまだまだ進化する可能性があるということを知らしめたといっていいだろう。

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プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。

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