旅と暮らし
もう一度帰りたい、ブエノスアイレスのリノベーションホテル
2018.01.25
Palacio Duhau - Park Hyatt Buenos Aires
(パラシオ ドゥオー パーク ハイアット ブエノスアイレス)
ブエノスアイレス/アルゼンチン
昨年の春、3年ぶりにブエノスアイレスへ行った。女性の南米ひとり旅というと心配もあり、私自身も少し緊張はする。特に空港からホテルに向かう時は、早く着かないかなとそわそわする(ちなみに移動にはレミースという空港のハイヤーを使用)。そんなテンションでもあったので、約30分のドライブ後、レミースが「パラシオ ドゥオー パーク ハイアット ブエノスアイレス」に到着したときは、突然の優雅さに脱力した。
ベル・エポック様式の白亜の建物は、もとは1934年にフランス人建築家がある一家のために設計した邸宅。高い天井にはクリスタルのシャンデリアがつるされ、隣には大理石の柱が連なる。邸宅というよりは文化遺産のようだ。改装を経て、2005年にホテルとしてオープンしているが、大枠としては当時のまま。ここは、ブエノスアイレスで最も趣きのあるホテルだと思う。
特に4400㎡の広大な庭園がいい。緑が茂るなかシンボルの大樹が天に伸び、鳥のさえずりが聞こえるなど、この庭は平和すぎる。いくらでも油断していい、南米旅行のいっときのオアシスだった。焼きたてのクロワッサンとフルーツ、コーヒーといった朝食をテラスでとれば、一日の始まりとしては最高だ。
街めぐりをして、アサード(牛肉のバーベキュー)を食べホテルに帰ってきたら、立ち寄りたいのが「Vinoteca」と併設のチーズルーム。「Vinoteca」は7000本ものアルゼンチンワインをそろえ、厳選のマルベックを100種以上もそろえる。私が大好きなアルゼンチンの代表品種、トロンテスがたくさんあるのもうれしい。
そしてチーズはチーズソムリエが選んだアルゼンチンチーズを用意。チーズ職人による熟成具合も絶妙なチーズをつまめば、ワインが恐ろしいほどに進む。牛肉が有名なアルゼンチンは、実はチーズも相当おいしいのだ。
「Vinoteca」でワインを飲んで気分がよくなったときに見たアートも忘れられない。ホテルは新館に通じる地下に廊下兼ギャラリーがあり、アルゼンチンの気鋭アーティストの作品が月替わりで展示されている。意外なほどに攻めた現代アートもセレクトしていたりして、クラシックなホテルとのコントラストがいいあんばいだった。
部屋はシンプルで、普通といえば普通の客室。あれだけパブリックスペースが趣きたっぷりなのだから、使いやすければそれで十分。印象的なのが、部屋の扉がかつてなく分厚く、安心感が満点だったこと。金庫もちゃんとPCが入るサイズだったし、仕事をしながら泊まる身としてはそういう細部がうれしかった。
最後に、館内でとびきり格好いいのが、1階の「The Oak Bar」。バーの壁やドアは17世紀フランスのノルマンディーで城を飾るために用いられたオークの板で作られており、いまも精巧な彫刻が残っている。昼から深夜まで営業しているので、昼さがりにぼーっと時間を忘れて飲むにも最適。17世紀の彫刻に囲まれて、やはりリノベーションホテルはいいなと身に染みた。ただそこにいるだけで、いつもと違うアイデアが湧いてくるような非日常的空間だった。
というわけで、庭、ワイン、アート、アンティークが好きな人には間違いのないホテル。改めてブエノスアイレスのホテルをいくつか閲覧しても、ここが一番だと思わざるをえない。
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。