紳士の雑学
信頼される動画メディアでありたい
エブリー代表取締役 吉田大成インタビュー[前編]
2018.04.11
毎月1500本以上の動画を配信し、国内のレシピ動画メディアとして最大規模を誇る『DELISH KITCHEN』やメイクやファッションなど女性のための動画『KALOS』などの動画コンテンツを手がける「エブリー」。代表取締役の吉田大成氏は、急成長を遂げる会社の経営者としていま何を見ているのか、何に時間をかけ、どのようなサービスをつくろうとしているのかを語ってもらった。
まずは業界の真ん中に身を起き、行動しながら取捨選択していく。
動画元年と言われた2014年、当時グリーで働いていた吉田大成氏もそのことを痛感したという。
「14年の年末、あるアプリのプロモーションを行うのにYou Tuberの方に出てもらいYou Tubeで宣伝していたのですが、このときに自分の感覚が完全にズレている、動画領域を見直さなくてはと思いました。というのも、プロモーションをしながらもどこかで僕は『この動画はきっと10代しか見ないだろう』と高をくくっていたんですよね。でも、結果はまったくの想定外で20代はもちろん30代や40代の方も多く見ていました。このときの認識のズレは衝撃的で、動画について改めて考えたい、この領域で自分たちにできることはなんだろうと考えるようになりました。ライフスタイルに関わる動画配信を新規事業で行いたいと会社に提案しましたが方針と合わず、2015年8月には会社を辞めて、翌月9月には独立しました。
辞めた直後に『会社の作り方』のような本を買って(笑)、カメラも触ったことなかったので電器屋で購入、その足でカメラの使い方が載ってる本を入手してと手探り状態で準備。表参道に2LDKのマンションを借りて、撮影と編集ができる状況をなんとか整え、1~2年はチャレンジできるくらいの資金をつくり事業を始めました。でも、そのときは特別に綿密な事業計画があったわけではないんですよ。
始める前にあれこれ考えても限定的なことしか見えませんし、まずはその業界の真ん中に立たないと始まらないと思っています。いま何が求められているのか、業界全体の動きはどうなっているのか。これらは中に入って動いてみて、体験的に得ないとわからないことです」
前職の肩書を新しい仕事に持ち込まない。成功体験をいかに捨てるか。
実際に動画配信を行うと、動画業界ならではの動きが見えてきた。動きだしてから描いた今後5年くらいのロードマップは、いまに至るまでほぼそのとおりのスピード感で動いているという。流れを見定めたり、何を取捨選択すべきかを決定することは前職での経験が大いに生きたと吉田氏。ただ……と言葉を切った。
「前の仕事で学んだことを生かすより、前職の肩書きや経験をいかに捨てるかのほうが課題でした。新しく会社を立ち上げたことは一応話題になりましたが、それはすべて『前職グリーの取締役が』という前置き付きで語られること。それに乗っかればクライアントが付き取引できるかもしれませんが、その効力は一度だけのもので、決して長い信頼関係にはつながりません。
評価してほしいのは、僕自身のことではなく自分たちがつくったサービス。前職を意識すれば『成功しなければ』という変な力が入ってしまい、それはユーザーに求められる動画をつくりたいという軸からズレてしまうリスクもある。ですから、前職の成功体験や自分のつまらないプライドを捨てることは強く意識しました」
前職の肩書や成功体験を捨ててまでチャレンジしたかった動画コンテンツ。吉田氏はどんな動画メディアをつくろうとしているのか。「僕らは、動画には写真や文字とは違う情報の伝え方、理解のされ方があると思っています。スマホを持ちインターネットを誰でも使う時代に、まずは信頼されるメディアになること。そのために動画は自前でつくることを大前提に、リッチメディアだからこそ伝えられることにチャレンジすること。そして、コンテンツのクオリティーが劣化しないためにも再投資を繰り返せるだけの収益を上げること。その3つを大切にしています」
信頼できるメディア。レシピ動画メディア『DELISH KITCHEN』でレシピを考案し、料理をつくっているのは、全員が管理栄養士や栄養士、ベテラン料理研究家などの食のプロ。彼らが誰でも美味しく簡単に作れるレシピを考案し、栄養価を計算し、簡単にできてバランスのいい食事を提案する。そして動画では実際に腕を振るう。1カ月で1500本ほどの動画制作と配信を行うというが、そのクオリティーを保ち、安全や安心を保証するために徹底した姿勢が貫かれていた。
Photograph:Shota Matsumoto
Text:Noriko Ooba
プロフィール
吉田大成
2005年4月ヤフー株式会社に入社。2006年10月グリー株式会社に入社後、モバイルSNS事業、モバイルゲーム事業、プラットフォーム事業を事業責任者として立ち上げる。2010年12月 同社執行役員、2012年9月 同社 取締役執行役員常務に就任。2015年9月株式会社エブリーを創業。『Forbes JAPAN 2018年1月号』掲載の「日本の起業家ランキング2018 ライジングスターアワード」にて、第1位に選出。