旅と暮らし
郷土料理が忘れられない、サイゴン川に浮かぶように立つ
ベトナム式ブティックホテル
2018.06.26
![郷土料理が忘れられない、サイゴン川に浮かぶように立つ<br>ベトナム式ブティックホテル](http://p.potaufeu.asahi.com/3c81-p/picture/12942706/286168d2f85557552ca3a75ed7616a7b.jpg)
AN LAM SAIGON RIVER(アン ラム サイゴン リバー)
ホーチミン/ベトナム
常に海辺か川辺に泊まりたいという願望が強く、ホーチミンでもサイゴン川近くにあるホテルを探していた。そこで見つけたのが、「アン ラム サイゴン リバー」というホテル。5つ星ホテルとあるのだけれど、写真を見るに、いわゆる完璧に整備された外資系のラグジュアリーホテルとはひと味違う。もう少しのんびりした、ベトナム式ブティックホテルといった趣だった。
![1050_2](http://p.potaufeu.asahi.com/fa3f-p/picture/12942707/5f5988e37fae991b1a1cdd58d8072561.jpg)
ともあれ、川に浮かぶように立つそのロケーションに惹(ひ)かれ予約をした。ホーチミンの中心部からはクルマで約40分(スピードボートなら約20分)。景気がよくイケイケな雰囲気が漂う市街とうって変わり、ホテル周辺はひっそりと静か。ツーリストがまったくいない郊外のエリアである。
ホテルのエントランスをくぐると、そこは南国だった。大きなバンヤンツリーやバナナの木が並び、緑が鬱蒼(うっそう)と茂っていた。白い花が咲き、見たことのない果実のなる木もある。無造作なくらいの庭に「ここに来てよかった!」とすぐに実感した。都会疲れしているときにちょうどいい、オアシスだったのだ。
![1050_3](http://p.potaufeu.asahi.com/8f31-p/picture/12942708/af3155d90c055a1c0f7c098e67c88c52.jpg)
ホテルを作ったのは、ベトナム人のインテリアデザイナーであるMr.Lamさん。もとは自身のプライベートハウスだった建物を、2011年にホテルとしてオープンさせた。着いたあとにその話を聞き、すべてに合点した。
ベトナムらしい家具がそろった施設は、ホテルというより別邸といった雰囲気。ダイニングには情緒たっぷりのランタンがつるされ、屋内外の家具はすべて木製。ダイニングが入った建物は釘やコンクリートを使わない“木組み”による構成で、日本人にとってはちょっと懐かしい。電源コンセントまで、きれいに木の中に組み込まれていたのが印象的だった。
![1050_5](http://p.potaufeu.asahi.com/09dc-p/picture/12942711/1462f96b6a2ca2996c111cbeaa751d4e.jpg)
プールは木々に囲まれるようにあり、広くはないけれど平和そのもの。花が咲き、鳥が鳴き、ベトナム人たちの笑い声が響く。ベトナム人の利用者が多いイメージで(外国人ゲストはひとりも見なかった)、とにかくのどか!
![1050_6](http://p.potaufeu.asahi.com/67d8-p/picture/12942714/63164846c45746b67563d56018eb7452.jpg)
全16室の客室はすべてがスイートルーム。私が泊まったのはガーデンビューの50㎡の部屋で1泊2万7000円。どの部屋も50㎡以上の広さを誇り、ベッドもバスルームも大きくテラス付き。バスタブの隣に大きな窓があり、豊かな緑と太陽の光を浴びながらお風呂に入れたのもポイントが高い。ちなみにバスルームにはアメニティとしてベトナム傘が置いてあったのだけれど、一度も外でかぶらなかったのが心残りだ。
![1050_7](http://p.potaufeu.asahi.com/cdfb-p/picture/12942715/f399267d54645ef02d0bb28ca1386907.jpg)
5つ星ホテルというより4つ星ホテルに近い。人の家に泊まっているような気にもなってくる。しかし、あの鬱蒼と茂る緑と部屋のゆとり、ベトナムらしい個性を考えると、一般的な基準は関係なく、このホテルは好きだ。
そして忘れられないのが、レストランのベトナム料理のおいしさ。特に有名店ではなく、思いがけない絶品だった。外国人向けに整えられた小ぎれいな料理ではなく、いい意味でホテルっぽくないベトナム料理が食べられる。いちばんの違いは、野菜やハーブがとてもフレッシュだということ。多くの野菜はベトナム南部の高原地、ダラットから仕入れているとか。寒暖差のあるダラットは、クオリティーの高い野菜の名産地なのだ。
「何を食べてもおいしい」というのは安直な感想だけれど、まさにそうだった。それも、雄大に流れるサイゴン川をすぐ隣に食事をすることができる。川の色は濁っているけれど、それがまた東南アジアに来たという旅情をかきたてる。ときおり通る砂利運搬船も妙にいとおしい。こういう場所で、ぼけっとする時間がたまには必要なのだ。
![1050_10](http://p.potaufeu.asahi.com/3169-p/picture/12942722/ea1c062a3d93f111b5989236c1ce6a40.jpg)
川沿いでランチをするために、また訪れたいと思う。泊まらなくても食事はできる。でも、川沿いで食べる朝食のフォーのおいしさを思い出すと、やっぱり泊まりたくなってしまう。フレッシュな香草をたっぷりのせたフォーは、最高のお目覚なのだ。
![1050_11](http://p.potaufeu.asahi.com/2e5c-p/picture/12942721/8cdf17819e84aa93230f806c428ad783.jpg)
プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。
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