週末の過ごし方
クールな見た目と優しい味わい。
甘さを抑えた、紳士のためのフルーツサンド
[喫茶店ランチを愛す]
2018.07.05
時代の荒波にもまれ、ニッポンのビジネスマンは今日も行く。だからこそ、ひと息つける安らぎの場所は確保しておきたい。そこで、喫茶店ランチである。心と体をほぐし、英気まで養える、そんな都会のオアシスを紹介していく。
創業1966年。この地で愛されて半世紀以上になる。店名の「ストーン」は初代の実家が石材店だったことに由来。その石のショールームを兼ねて設計された、重厚かつエレガントなたたずまいが魅力である。壁には国会議事堂にも卸した御影石が使われ、床には日生劇場でも見ることができる、職人によるモザイク手法が採り入れられている。以前は、日本を代表するインテリアデザイナー・剣持 勇による名作椅子が並んでいた(現在は安全面のため差し替えられた)、建築マニア垂涎の空間でもある。
だからこそ、ここで紳士が食べるべきは「フルーツサンド」である。バナナ、パイナップル、生クリーム、パン。美しいクリーミートーンでまとめられた、この洗練の配色はどうだろう。このところ多く見かける、カラフルなそれらとは趣を異にしている。
「祖母が立ち上げたこの店を、私が引き継いで7年が経ちました。あらためて方向性を考えるべく、創業当時のメニューを見直したとき、このフルーツサンドを復活させることにしたんです。いちばんの特徴は甘くないこと。バナナの自然な甘みとパイナップルの酸味を生かすべく、生クリームの甘みはグッと抑えて。それらをしっかり分厚いパンで挟むことで、味わいスッキリ、ボリュームは満点の逸品ができあがりました」
そう語るのは、現オーナーである奥村眞世さん。バナナとパイナップルの絶妙なマッチングが癖になる。見た目、味わい、食べ応え。すべてが100点満点の「男のためのフルーツサンド」である。
さらにもうひとつ、男性向けのパワーフードとして紹介したいのが「ミルクセーキ」だ。卵黄と牛乳に砂糖を加えた、昔ながらのエネルギードリンク。昭和が生んだ最強飲み物というべきか。
「祖母がオーナーだったころから、私は一緒にこのお店を切り盛りしていました。祖母から学んだのは、お客さまが求めるものを察知する力。会話ならゆったりした席へ、仕事なら机が広い席へ。オーダーを急いでいるのか、ゆっくりメニューを決めたいのか。そこを読んでこそ、この仕事は成り立つことを立ち姿から学んだ気がします」
空間もメニューも人との距離感も、初代が築いた「あ、うん」の呼吸を引き継ぐ名店である。
Photograph:Ryo Yonekura
プロフィル
本庄真穂(ほんじょう・まほ)
神奈川県生まれ。編集プロダクションに勤務のち独立、フリーランスエディター・ライターとなる。女性誌、男性誌、機内誌ほかにて、ファッション、フード、アート、人物インタビュー、お悩み相談ほか、ジャンル問わず記事を執筆。記憶に残る喫茶店は、山口県・萩にあるとん平焼きを出す店名のない喫茶店。福岡県・六本松の『珈琲美美』、神奈川県・北鎌倉の『喫茶 吉野』に通う。