旅と暮らし

ノルマンディー、ロマンチックが止まらない日記
第3回ドーヴィル&トゥルーヴィル編:ふたりで海辺を歩いたあとは、
シーフードプラッターをシェアしましょう!

2018.08.24

大石智子 大石智子

ノルマンディー、ロマンチックが止まらない日記<br>第3回ドーヴィル&トゥルーヴィル編:ふたりで海辺を歩いたあとは、<br>シーフードプラッターをシェアしましょう!

<<第2 回ルーアン編はこちらから

ノルマンディー地方を巡る旅は、いつも去る街に対して後ろ髪を引かれる。3日目にしてそう確信しながら向かったのは、ドーバー海峡に面する海辺の街、ドーヴィルとトゥルーヴィル。川を挟んで隣り合った街だけあって名前が似ています。

ドーヴィルは映画『男と女』の舞台として、トゥルーヴィルはポスター作家のレイモン・サヴィニャックが晩年を過ごした地として知られています。

まずはドーヴィルから入りますが、今回は『男と女』の舞台という前情報を知っていたので、イメトレは完璧。主演のふたりが歩いた砂浜に行くと思うと、“ダバダバダ、ダバダバダ”とあの名曲が脳内で流れます。

そうしてクルマがたどり着いた場所にいたのは、なぜか馬!

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馬優先!

そこは、海からちょっとだけ離れた場所にある競馬場でした。日本の競馬場のイメージと違い、公園のようにたくさんの木が並び緑にあふれています。

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競馬場「Hippodrome de Deauville」のエントランス。
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レースは一年中開催され、入場料は 5 ユーロで馬券は2ユーロから。誰でも気軽に参加できます。
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訪れた日は練習が行われていました。海が近いため、日によって馬たちは海水に漬かり筋肉の緊張を和らげるそうです。

『男と女』の舞台に競馬場があるのは意外でしたが、実は競馬場の存在こそ、ドーヴィルという街の成り立ちをわかりやすく教えてくれます。

500 年前、この地は丘の上に集落があるくらいで、ほぼ何もないといっていい干潟でした。それが、1860 年代にナポレオン3世の異父弟のモルニー公爵がここを訪れ、風光明媚(ふうこうめいび)な環境を気に入ったことで避暑地として発展。人を呼ぶためにパリからドーヴィルまでの鉄道を引くと、ビーチ、レジャー、別荘を備えた地としてにぎわいはじめました。

そんなドーヴィルの生みの親ともいえる公爵は馬が大好きで、1864 年にこの競馬場が設立されたのです。古くから現在まで、ドーヴィルでバカンスを過ごす人たちはここに足を運び、家族みんなでレジャーとしての競馬を楽しんでいます。また、ポロのコートも併設。ドーヴィルは馬に関するあらゆる施設がそろい、馬を大切にしている街なのです。

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趣たっぷりな昔使われていた厩舎。

http://www.france-galop.com/fr/hippodromedeauville

そして競馬場から歩いて5分のところにあるのが、こちらのストラスブルジェ邸。庭にはたくさんのバラが咲き、絵本の中の世界のようなかわいらしさ! もとは豪農の家だったものを、1959 年に資産家のストラスブルジェ氏が購入。その後、市に寄贈されました。

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とびぬけて瀟洒な邸宅のため、いまは映画のロケーションとしてひっぱりだこ! オドレイ・トトゥ主演の『ココ・アヴァン・シャネル』や、レオナルド・ディカプリオ主演の『華麗なるギャツビー』の舞台ともなりました。

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映画内でココ・シャネルのアトリエして使われた1階のリビング。
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ブルジョワの設定に完全に対応できる優雅な寝室!
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すべての部屋に明るい光が入るレイアウトで、バスルームもこんなに爽やか! それにしても広い!
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ストラスブルジェ氏自身が馬のオーナーであり、自分の馬が勝つごとに馬の絵を描かせて家に飾っていた。

http://en.normandie-tourisme.fr/pcu/villa-strassburger/deauville/fiche-PCUNOR014FS00073-2.html

ドーヴィルの中心地へ行くと、そこはフランス版の軽井沢のよう。瀟洒かつ比較的整備されていて、土曜だったこの日は国内からの観光客たちでにぎわっていました。街の人口 4000 人にして、週末はその 8 倍の人が集まるのだとか。

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高級ブランドの路面店も多く、それらすべてがノルマンディー仕様の外観。例えばエルメスもこんなにメルヘンチック!

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ドーヴィルには 19〜20 世紀に建てられたヴィラが約 300 軒あり、うちいくつかはこのようなショップにリノベーションされています。

1913 年にはココ・シャネルがドーヴィルに帽子専門店を開店し、それはパリに次いで2軒目の店でした。バカンスのために集まる富裕層が多いことと、ドーヴィルの日差しが強いことが、この地が選ばれた理由だそう。

シャネルのデザインのなかにはドーヴィルに関連するものもあり、シャネルボタンは漁師、多用したベージュは砂の色から着想を得たそうです。

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店の跡地は、いまは記念看板がかかっているのみ。シャネル以外にイブ・サンローランもドーヴィルにゆかりがあります。

街を抜けて、いよいよ海のほうへ。「ついに『男と女』の舞台を目の当たりにする!」と思っていると何やら騒がしい。海岸まで出ると、トライアスロンの大会が行われていました。

_22Evénement-40---Triathlon-international-de-Deauville-©-Laurent-Lachèvre
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実はドーヴィルはスポーツイベントが盛んで、トライアスロンのほかウインドサーフィン、ボート競技、ポロの大会もよく行われます。街の産業の 8 割が観光のため、スポーツや文化芸術、音楽のイベントで人を呼んでいるのです。最も有名なのが、毎年行われているドーヴィル・アメリカ映画祭。

この日、トライアスロンのランニングコースとして利用されていたデッキは、普段ならこのような感じ。恋人たちの、そして犬たちにとっての定番の散歩コースです。『男と女』でもおなじみ!

_18Plage-22---Les-Planches-©-Patrice-Le-Bris
デッキに並ぶ扉の向こうは更衣室。

ビーチに出ると遠浅のため砂浜が長い! このビーチはまさに、“ダバダバダ、
ダバダバダ”ですね!

_20Plage-4---Parasols-©-Patrice-Le-Bris

とにかく平和なムードにあふれたビーチでありました。

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今回はドーヴィルには泊まらなかったのですが、街を代表するホテル「Hotel Barriere Le Normandy」は美しいノルマンディー建築が目を引きます。

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Architecture-25---Hôtel-Nomandy-Barrière-©-Ville-de-Deauville

大通りを挟んですぐビーチというロケーションで、部屋数は 271。木組みの壁、屋根の上の動物の飾り、床のタイル張りなど、ここに泊まればドーヴィルの建築を象徴するものをいくつも見ることができます。

https://www.hotelsbarriere.com/en/deauville/le-normandy.html

おなかを空かせて向かったのは、ドーヴィルの隣町、トゥルーヴィル。川を挟んだ対岸というだけなのに、雰囲気がけっこう変わります。観光っぽさが薄れ、市民の日常の活気を感じるという感じでしょうか。庶民的になって落ち着きます。

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ここトゥルーヴィルで、私、覚醒しました。というのも、この旅イチと言ってもいい食事に出合ったから。それが、こちらのフィッシュマーケットに併設されたイートインで食べられるシーフード。

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右に魚屋、左にイートインのテーブルが並びます。これは、天国への道と言わざるを得ない!
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なんちゃっての魚屋ではなく、築地のオヤジさんを彷彿とさせる人たちが魚を売っています。
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そこで並んでいるのは、近隣の海でとれた新鮮なシーフード。つまり、宝!
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    そんな宝を目にした人はどうなるかといえば、思うがままに食べる!飲む!となります。
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自分で魚屋さんにて魚介を見ながら、食べたいものをその場で注文。指差しでのやりとりもOK です。

通りにはおしゃべりと海老の殻をむく音、ワインを注ぐ音などが混じり合って聞こえます。笑い声もあふれ、ここには楽しんでいる人しかいない! ちょっと面白いのが、パンは自分で買っての持ち込みということ。食べきれなかったパンを次に座るお客さんに譲ったりする場面もあり、おおらかな雰囲気が最高です。

ランチはトゥルーヴィル観光局のソフィーさんとステファニーさんと一緒に食事。めちゃくちゃ明るい女性たちで、登場した時点で空気がガラっと変わったほど。魚屋のおじさんもホテルのお姉さんも、食事をしている人たちも明るくて、太陽によく当たっている人はやはり朗らかなのかなと思えてきます。

おまかせでテーブルに着くと、まずやってきたのは小海老の素揚げ。小海老に合わせてソフィーさんがスパークリングワインを頼んでくれて、天使に見えました。

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そしてお待ちかねのシーフードプラッターが登場! こんな豪快な魚介盛り、日本では見たことがない!

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3種の海老や牡蠣などが入ったシーフードの全部のせを 4 人でシェア。フランスでおなじみの小さくてミルキーな牡蠣(かき)は、20 個は食べられます。海老も貝も旨みが濃くて、ミネラル感に力が湧いてくる。思い残すことがないほど魚介を堪能しました。その後、満腹を解消するために街を散歩。

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干潮になるとドーヴィルとトゥルーヴィルとの間の河川の水が引き、橋で対岸に渡ることができます。
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橋番のおじさんがいい感じです。

そして砂浜に出ます。トゥルーヴィルの砂浜は 19 世紀から人気が高く、そのきっかけは画家のシャルル・モザン。彼がキャレ・デュ・ルーブルのサロンでトゥルーヴィルを話題にしたことで人気に火がついたと言われています。

そのころフランスでは海水浴が新たなレジャーとして注目を集めはじめ、そんななかトゥルーヴィルは“砂浜の女王”と称される、多くの人でにぎわうようになりました。

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細かい砂と貝殻で覆われた砂浜の全長は 1200m。
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砂浜の手前には、1865 年から 1885 年の間に建てられた上流階級の人々のためのヴィラが立ち並ぶ。ネオ・ノルマン様式、ネオ・モレスク様式、英国風など、その時代ごとの空気を反映する多彩な建築様式が共存。

そんな砂浜で観られるのが、ポスター作家のレイモン・サヴィニャックの作品。遊歩道沿いに作品が並び、歩くごとにユーモアと可愛らしさあふれるポスターを目にできるのです。

サヴィニャックは 2002 年に亡くなるまでの 23 年間をサヴィニャックで過ごしました。この地を愛した彼にちなみ、遊歩道は“ブロムナード・サヴィニャック”と名付けられ、市民に慕われています。

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砂浜に並ぶサヴィニャックのポスター(複製)の数は18 枚。

トゥルーヴィルに住んでいたサヴィニャックは、街に出ては自分のポスターを確認し、安心すると「ホテル・フロベール」のバーで一杯飲んで帰ったそうです。

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「ホテル・フロベール」の外壁看板もサヴィニャックの作品となっている。
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「ホテル・フロベール」のバーでサヴィニャックはいつもコーナーの席に座っていた。

砂浜から 3 分ほど歩くと、小ぢんまりとした店が並ぶ商店街があります。

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いちばん下のアイスクリーム屋さん「GLACIER LUC」では地元のフルーツやノルマンディー特産の乳製品をたっぷり使ったアイスクリームを食べられます。

そして街の一角にあるのが、1930 年代からあった郵便局をリノベーションして作ったホテル「ランシエンヌ・ポスト」。全 5 室の小さなホテルです。中に入ると、郵便局時代のままのカウンター、電話台、私書箱などがあり、めちゃくちゃおしゃれ!!

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右側にあるカウンターは手紙に住所を書いたりする場所、左には電話台がある。
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郵便物を預けるカウンターはバーに変身。レストランはないため、宿泊客はカウンター内のキッチンで自由に料理を作ることもできる。
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5 室ある客室はそれぞれが違うデザイン。コンパクトながら1週間くらい住んでみたいと思った。

長年、たくさんのトゥルーヴィル市民が手紙を持ってここを訪れていたかと思うとちょっと不思議な、温かい気持ちになってきます。今回は泊まれなかったけれど、次回トゥルーヴィルを訪れる際は絶対にここを予約したい。

代わって、レストランやスパのある5つ星ホテルが好みの人におすすめするのは「Cures Marines Trouville Hotel Thalasso & Spa-MGallery By Sofitel」。

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ホテル名にあるとおり本格的なタラソテラピーを受けられるスパを設け、ノルマンディー旅行の合間のリフレッシュには最適。タラソテラピーとは海水を利用した療法のことで、トゥルーヴィルのようなミネラルの強い海に隣接するホテルのそれなら期待せざるを得ない。海老や牡蠣だって、あんなにおいしかったのだから!

https://sofitel.accorhotels.com/gb/hotel-8232-cures-marines-trouville-hotel-thalasso-spa-mgallery-by-sofitel/index.shtml

その「Cures Marines Trouville Hotel Thalasso & Spa-MGallery By Sofitel」でお茶をして、トゥルーヴィルを去りました。たった半日しかいなかったけれど、私はこの街が大好きになった。

人々は社交的で、砂浜に出ればひたすらぼーっとしている人がたくさんいて、海には昔風の水着を着た人が泳いでいたりする。少し時が止まっているような雰囲気もあり、なんというかフランスだけど昭和っぽい。

サヴィニャックのポスターのある遊歩道を、恋人とおしゃべりしながら歩いたりしたらそれは甘いひととき。それで散歩でおなかが空いたらふたりでシーフードプラッターをシェアし、帰る宿はレトロな郵便局……。う〜ん、これは相当に味が濃いロマンチックな旅です。

そう妄想しながらこの日たどり着いた宿は、ポン・レヴェックにある「エデン・パーク」。湖畔に佇む4つ星ホテルで、ディナーの最中に嘘みたいな夕日が現れ、湖面を赤く染めたのでした。

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そして朝起きたら湖畔に鴨ちゃんがいました。

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ではでは、次回はトゥルーヴィル&ドーヴィル日記です。また来週〜!

取材協力/エールフランス航空
     ノルマンディー地方観光局
     ドーヴィル観光局
     トゥルーヴィル観光局
     カルヴァドス県観光局
     フランス観光開発機構

プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。

Photograph:Ryoma Yagi

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