旅と暮らし

俳優・岸谷五朗、街を呼吸する。
第10回 新橋

2018.08.30

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岸谷五朗が部下との不倫に溺れる主任を演じた映画『夜明けの街で』のラストシーンは、新橋駅前の広場だった。喪失感から放心したように立ちすくむ彼の周りを多くの通勤客が通り過ぎる。もちろんすべてエキストラだが、実際に収録した朝に多くのリアルなサラリーマンを見たそうだ。

「電車が着くと、改札からどっと人があふれてくるんですよね。どこの駅もそれは同じですが、新橋の場合はほとんどが会社員という感じがしました」

確かに、東京でサラリーマンの代名詞となる駅といえば、有楽町でも品川でもなく新橋だろう。ほかでは学生や主婦もそれなりにいるものだが、新橋ではスーツにネクタイの男性の割合が圧倒的に多い。情報番組の街頭アンケートで、昼であれば移動途中、夜であれば赤ら顔のスーツ姿にレポーターがマイクを向けるのはこの駅前広場になる。

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かつて、新橋駅近辺には多くの靴磨き職人がいた。最盛期には20人を超えていたという。終戦後から高度成長期以前、日本の道路は都心であっても舗装が不完全なところが多く、革靴はすぐに汚れた。そのまま得意先には行けない。そんなとき、駅前に列を並べる靴磨きの職人は頼りになる。世間話をしながら、短い時間にピカピカに磨き上げられた靴に元気をもらい、次の会社へと向かっていった。

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「僕自身はいろいろなアルバイトをやってきましたが、サラリーマンの経験だけはないです」と笑いつつ、岸谷はこう続ける。「こういう人たちが日本を支えてきたんだな……と思いましたね」

道はきれいに整えられ、靴はぐっと品質が良くなった。同時に他のエリアと同様、新橋でも靴を輝かせる職人芸を見ることはほとんどない。だが、再開発を数年後に控えた駅の近辺は、まだ前世紀の薫りを残している。

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「誰もが仕事に向かう苦しみを抱え、でもそれゆえの強さを持っている。僕とは真逆のキャリアなんだけど、勇気をもらえます」

焼け野原となった日本を復興させたのは、まぎれもなく靴の底を擦り減らして歩く男たちだった。昭和から平成、そして次の元号へと、駅を通りつづけるその心意気はきっと受け継がれてゆく。

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<新橋とは?>
港区のなかでは最も中央区に近いエリアであり、埋め立てられていまはない汐留川にかかっていた橋がその名の由来。明治5年に鉄道が横浜との間に、同15年に日本橋まで馬車鉄道がそれぞれ日本初で敷設されるなど、公共交通機関による発展の嚆矢(こうし)となった。大正期まではさまざまな町名があったが、関東大震災後の区画整理でその多くが廃止され、「新橋」の名で1丁目から7丁目まで統一された(現在は6丁目まで)。現在、駅前の広場には鉄道発祥の地を記念して蒸気機関車が置かれ、ビジネスマンの待ち合わせ場所として格好の目印になっている。

<訪れた店>
靴みがき本舗
新橋駅前ビルにある新しい形態のシューシャンサービス。若い職人たちの丁寧な仕事ぶりには定評がある。希望に合わせて仕上げのメニューもさまざま。八重洲地下街、浜松町駅近く、ホテルニューオータニなどのホテルなど、ほか4店舗でもサービスを提供。また、隣にある新橋駅前ビル1号館には修理も行う姉妹店「シューシャイン東京」が入っている。ケア&シャイン¥2,160~ 東京都港区新橋2-21-1 新橋駅前ビル2号館B1 03-3572-5177 営業時間 月~金10時~21時 土10時~18時 日休
http://www.kutsumigakihonpo.jp/

<岸谷五朗(きしたに・ごろう)>
1964年生まれ。大学時代から劇団スーパー・エキセントリック・シアターに在籍し、1993年「月はどっちに出ている」で映画初主演にして多くの映画賞を受賞し高い評価を集め、以降テレビ・映画での活躍を広める。94年に独立後、寺脇康文と、演劇ユニット地球ゴージャスを主宰。出演以外に演出・脚本も手がけ、毎公演ともソールドアウト、今年の新作「ZEROTOPIA」で動員数100万人を超えた。2018年10月には、テレビ東京、BSジャパンで放送、Paraviで配信される『天 天和通りの快男児』にて主演を務める。

スーツ¥149,000/ルイジ ビアンキ マントヴァ、シャツ¥23,000/ジャンネット、タイ¥11,000/エルビーエム 1911(すべてトヨダトレーディング プレスルーム 03-5350-5567)、その他はスタイリスト私物

掲載した商品はすべて税抜き価格です。

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Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up:INOMATA(&’s management)
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)

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