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ピッティは変わる。[後編]
2019 SS PITTI IMMAGINE UOMO 94

2018.10.03

ピッティは変わる。[後編]<br>2019 SS PITTI IMMAGINE UOMO 94

第94回“ピッティ・イマージネ・ウォモ”(以下ピッティ)が、6月12日から15日にかけてイタリアのフィレンツェで開催された。ピッティは、年2回開催される世界最大級のメンズファッションの国際見本市で、今回は1240ブランドが出展し、来年の春夏コレクションを発表した。海外からの出展ブランドも多く、全体の約45%を占める561ブランドに上り、インターナショナルなイベントであることを証明する。

一方、4日間の総来場数は3万人以上を記録し、このうちバイヤー数は1万9100人(海外バイヤーは8400人)を数え、活況なビジネスの場であることを示す。ちなみに日本人バイヤーの来場数は、トップのドイツに次ぐ2位。それだけ国内のファッション業界も熱い視線を注ぐのだ。

今回はこちらの後編をお届けする。

<<前編はこちら

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BERWICH / MASSIMO GIANFRATE マッシモ・ジャンフラーテ

注目の南イタリアに新たな息吹が吹き込まれる

イタリアファッションの新たなトレンド発信地として、プーリア州をはじめとする南イタリアが注目を集めている。もともとアパレルの一大生産地であり、ハンドメイドの技術が集積するとともに、歴史あるナポリスタイルとも異なる、豊かな自然環境や独自の文化を映す、強い個性が人気の理由だ。

こうしたローカライズしたスタイルが世界的な注目を集めたことで、本来の魅力を損なうことなく、より洗練度を増している。パンツ専業ブランドのベルウィッチは、2007年のデビューから成長を続け、魅力的に変わりゆく南イタリアの新進ブランドだ。ブランドマネージャーで、デザイナーのマッシモ・ジャンフラーテ氏は、近年の傾向をこう語る。

「SNSのようなグローバルなメディアが普及し、見た目にもわかりやすく、ポップな色使いもデジタル時代に合わせた流れでしょう。ただ伝えるメディアがどんなにデジタルに進化しても、本質が備わってこそリアルな魅力が伝わると思います」

しかし時代の変化とともに、ファッションを楽しむ世代も若返り、服に対する意識や向き合い方も変わっている。

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「それでも私たちはディテールにこだわり、エレガンスを忘れないスタイルを目指しています。それは伝統に根ざしたカジュアルという新定義です。課題は、その歴史や由来を魅力として落とし込みつつ、いかにコーディネートや楽しみ方を複合的に伝えられるか。それにはブティックやSNSを活用し、着方を提案すること。よほどのファッション好きでなければ、日々コーディネートを考えることは難しく、それを代わって提示したいと思います」

イタリアのファッションにおいて、服は日常生活に楽しみや豊かさを添える手段であること。その原点を伝えることが求められているのかもしれない。

「小さい会社なので、私たちにとって服作りは生き方そのものなんです。今後もファミリービジネスでやっていきたいですし、環境は変わったとしても、南イタリアらしさは変えずにいきたいですね」

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SANTANIELLO / ANTONIO SANTANIELLO アントニオ・サンタニエッロ

研究開発から生まれる沈着なパッショーネ

ナポリの南東、高級リゾート地で知られるアマルフィ至近にある都市サレルノ。ここで1968年に創業したサルトリアのオリジナルブランドとして、1993年にサンタニエッロはスタートした。

「サルトリアから始まった50年の歴史があり、高い技術をもちます。しかし伝統だけでなく、革新を商品にもたらすため、生地から開発し、染色や加工のほか、多機能性についても積極的に取り組んでいます」と創業家2代目で、クリエイティブディレクターを務めるアントニオ・サンタニエッロ氏は語る。ブランドは、両親と妹、弟の家族経営で「母は品質管理を担当し、いまだに作業着を着て、仕事をしています」と笑う。

立ち上げ当初は、規模や資金の問題からパンツの生産に絞っていたが、ビジネスが軌道に乗ってからはジャケットやスーツも手がけるようになる。

「小さいころは、父がスーツを仕立てるのを見ていましたし、それが夢でもありました。原点回帰であり、両親も喜んでくれています。積極的に取り組んでいるのは研究開発で、たとえ失敗を重ねても唯一それがほかとの違いを生み出す方法であり、撚糸の段階から縫製、加工など試行錯誤から新たな独創性が生まれます」

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南イタリア発祥と言えば、華やかで個性の強いコレクションを思い描くが、ベーシックなスタイルに、柄や加工の絶妙なアレンジでシックに味付けする。

「ビジネスマンはあまり派手で個性的なスーツは着られませんよね。やりすぎてはいけない。まず着用しやすいことが第一条件で、そこにほんの少しオリジナリティーを加えることで新鮮さが生まれます。南イタリアを代表するサルトリア技術の継承も大事ですが、その主張が強すぎないように。(主張が)見えてはいても静けさを感じる。これをテーマにクリエイティブを追求しています。ディテールを盛り込んでも、控えめに主張し、バランスを大切にする。それは日本の文化に近いと思いますよ」

そこに多くの試行錯誤から生まれた、独自の技術が注がれていることは言うまでもない。

「これまで試してきたレシピはすべて残してあります。それは培った経験値であり、これが結果としてブランドの強みになっていくと信じています。だからこそ勉強は欠かせないのです」

イタリアンファッションでも、特に南はパッショーネを大切にするという。しかしそれはただ感情に従うのではなく、唯一無二のオリジナリティーを追求し、研究開発を続ける沈着な情熱であり、美学にほかならない。

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DUNO / GIAN CARLO ROSSI ジャン・カルロ・ロッシ

世界へのゲートを開くビジネスコンフォート

ピッティは、世界中から多くのバイヤーが訪れるインターナショナルなトレードショーであり、ブランドをグローバルに展開するゲートになっている。その先に広がるビジネスチャンスを求め、新たに出展するブランドも数多い。

デュノは、2012年にフィレンツェで創業し、ファーストコレクションは14年に発表した。トスカーナ地方の伝統的なテーラリングに、現代的な機能性とリサーチに裏付けられたスタイリングを調和したアウターウエアだ。

「機能性とコンテンポラリーが融合したスタイルであり、着ていて自分がハッピーになれる服を作りたかったんです」とクリエイティブディレクターのジャン・カルロ・ロッシ氏は言う。

「スタイルはシンプルでもソフィスティケートされたもの。機能性にこだわり、素材も技術的に研究を重ねて完成しました。余計なものを極力省いたスタイルをコンセプトに、目立ちすぎることなく、どこにでも着ていくことができ、毎日着ていても飽きない。そんな服です」

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近年はアスレジャーのようなスポーツカジュアルのトレンドを背景に、軽量性や防水性、ストレッチなど快適性を備えた多機能なアウターがビジネスマンからも注目を集めている。そんなビジネスユースにも応えるベーシックなスタイルに都会的な洗練が漂う。しかしシンプルと個性を両立し、しかも飽きのこないデザインは難しいようにも思える。

「それは相反するものですからね。でもインスピレーションは素材から浮かび、そこにこれまで常に考えてきたアイデアを盛り込むことであり、目新しさや凝りすぎたものを作るよりも難しくはありません。特にこの服を選ぶ人は、時代や環境が変わろうとも常に自分の軸がブレないと思います。ですから先進素材や技術革新は採り入れつつ、10年後に見ても古いと思われないようなデザインを心がけています」

それはビジネスコンフォートと呼ぶにふさわしいスタイルであり、新たな可能性とともに、ブランドの魅力をピッティから世界へと広げつつある。

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EMMETI / MASSIMO DI FRANCO マッシモ・ディ・フランコ

伝統に培われた技術が新たなスタートラインに

革製品の本場フィレンツェ近郊で1975年に創業したレザー工房の2代目、マッシモ・ディ・フランコ氏が2009年に立ち上げたオリジナルブランドがエンメティだ。エレガンテ・スポルティーヴォをコンセプトに、躍動感あるラグジュアリーなレザーウエアを手がける。ピッティは今回が記念すべき初出展だ。

実はエンメティは、現状は日本と韓国のみの展開で、本国イタリアでも扱いはない。だが世界的な評価が高まるにつれ、欧米からの問い合わせも増え、真のグローバルブランドへのステップとしてピッティ出展を決めたのである。そしてそこには、家業を継ぎ、ブランドを興したフランコ氏の情熱が込められ、まさに新たなスタートラインに立ったのだ。

「まずブランドを知っていただくために出展しました。いまアジアを中心に海外での販売が伸びているので、世界のバイヤーが集まるピッティはそれをさらに広げる、いい機会になると思います」とフランコ氏。

「時代はどんどんスピーディーになり、僕たちもファッションにおける変化を意識して取り込んでいこうと思いますが、レザーを扱うということは、まず素材の魅力や特性を引き出し、表現することです。それには長年培った熟練の技術が不可欠です。そうしてでき上がった製品も着ていくうちに味が出て、さらに別の美しさが生まれます。それが革が人を引きつける理由であり、そこには時間をかける楽しみであり、豊かさがあるのです」

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伝統を重んじ、維持する一方で、時代のエッセンスを採り入れることも忘れない。

「あえてアバンギャルドな素材や、伸縮性のある異素材を組み合わせ、そのミックスで時代感を表現しています。素材の品質に加え、メイド・イン・イタリーのクオリティーを味わっていただけるよう、ハンドメイドを多く用いています。こうした伝統と革新を常に意識し、時代の流れを見ています。大事なことは、いますべてが近代化し、テクノロジーばかりが重視されますが、やはりクラフトマンシップを伝えたいですし、技術革新との融合を理解してもらいたい。それは過去と未来ということでもあるのです」

エンメティにとって、ピッティはその試金石となるのだ。

ピッティは変わる。ファッションが時代の感性を表現し、移り変わるものだからだ。しかし変わらないものもある。その本質である、男たちの美学への情熱や、飽くなき探求心だ。それが原動力となり、ピッティを衝き動かすのだ。

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Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Mitsuru Shibata
Coordinate:Shiho Sakai

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