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この彼女(ひと)から、買いたい。
クランプ 小林佳世さん

2018.11.07

いであつし いであつし

この彼女(ひと)から、買いたい。<br>クランプ 小林佳世さん

最近、ファッション業界でよく耳にする「モノ」より「ヒト」や「ウツワ」という話。服が売れない。お店に買い物に来てくれない。そんな昨今の消費者の意識や市場の状況を変えようと、百貨店やセレクトショップがこぞって掲げているコンセプトだ。

例えばコンシェルジュのようなプロ意識の高い販売員をお店に立たせて、まず服を売るのではなくサービスを売る。お客さんがまたこの人に接客されてみたい、この人から服を買いたい、そう思っていただけたらウッシシ大成功、というわけである。

筆者が思うに、そんなことは昔は普通に当たり前であった。いわゆるセレクトショップがまだショップと呼ばれていた80年代。ビームスやシップスや、個人でやっているような小さなショップにも、必ず「この人の着こなしをまねしたい」=「この人から買いたい」という名物店員や店主がいたものだ。いまとは違ってネットで情報がすぐわかる時代ではなかった。しかしそんな不自由さを差し引いても、どこのショップにも、お店に行かなくては会えない名物店員がいたのである。

その最たる存在だったのがショップの女性店員である。看板娘。ファッションアイコン。ミューズ。ちょっとした有名な店には、必ずそんな憧れの女性スタッフがいたものだ。

例えば80年代に渋谷のファイヤー通りにあった「文化屋雑貨店」の看板娘だった、島崎夏美ちゃん。当時、お客さんの口コミでその可愛さと人気ぶりが広がり、80年代のパルコ文化や西武カルチャーと相まって人気クリエイターたちにも可愛がられて、ついにはCM出演を機に芸能界デビューして本物のアイドルになってしまった。

ちなみに若かりしころに筆者の憧れの存在だったショップのミューズは、青山の「スーパーボール」でジルボーの服をパリジェンヌのようにシックに着こなしていた絹子さまだ。当時のアンアンにもモデルの甲田益也子に負けない美貌とセンスで出たりしていた、実に“男前”な女性店員であった。まだハウスマヌカンといったみょうちくりんな和製英語がブームになる前の話である。

さて、そこで「この人から、買いたい」の番外編として、いま筆者が気になっているすてきな女性店員がいるショップを紹介したいと思う。題して「この彼女(ひと)から、買いたい」。第1回目に紹介するショップと彼女は、群馬県太田市のアメカジショップ「KLAMP(クランプ)」の店長、小林佳世さんだ。

皮肉なことに筆者がカヨちゃん(もうそう呼んじゃいます)のことを知ったのは、インスタグラムからである。仕事柄、筆者のインスタグラムのフォロワーにはアメカジ好きが多いのだが、彼女が店長を務める群馬県太田市にあるショップもそのつながりで知った。

フォロワー数は5000人台と、いわゆる有名人的なファッションインフルエンサーのように驚くほどの数字ではないが、インスタのフォロワー数なんて筆者にはどうでもよい。なによりもカヨちゃんが魅力的なのは、かつてのショップアイドル島崎夏美ちゃんを彷彿させるようなキュートな笑顔と、ずばぬけたアメカジのファッションセンスである。

いわゆるヴィンテージウエアのレプリカの、よくできたアメカジブランドのネルシャツにジーンズにワークブーツスタイル。そんな王道のコテコテなアメカジスタイルをしたショップの店員や、そういったファッションを好むガチでアメカジな野郎どもはよくいるが、しかしこれが女の子となると話はまったく違う。筆者はいままで見たことがなかった。しかも弱冠26歳という若さでアメカジショップの店長というのだから、さらに驚く。

さっそく、そんなキュートな店長カヨちゃんに会いに群馬県太田市のアメカジショップ、クランプに行って来た。ショップはにぎやかな駅前の大通り沿いにある。店の前には小さな駐車場もあって、ボウズグラッドラグス 中村氏が描いてくれたアメリカンなイラストの看板が目印だ。

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「わざわざ東京から来ていただいてありがとうございます」と言って店の外まで出迎えてくれたカヨちゃんは、インスタグラムで見ていたあのキュートな笑顔のまんまである。インディゴウォバッシュストライプオーバーオールにシャンブレーシャツを合わせて、足元はホワイツの武骨なワークブーツ。同じ格好をアメカジ野郎がしたら男脂臭がプンプンしてきそうなアメカジの王道スタイルも、小顔で小柄なカヨちゃんがやるとなんともチャーミング。コテコテのアメトラスタイルの女の子が可愛いのと同じ理屈である。

クランプで扱うアイテムと、彼女が着ているブランドのほとんどはフリーホイラーズ&COというビンデージウエアのレプリカを得意とするアメカジブランドである。

「埼玉の大学に通っていたのですが、学生時代にバイトをしていたアメカジショップで扱っていた服がこのブランドで、いつも店長が格好よく着ていて、それからずっと好きなブランドで、いつか自分でお店をやることになったら絶対にフリーホイラーズ&COを扱おうって決めていたんです」

なんともブランド冥利に尽きるすてきな話ではないか。まさしくこれこそ「モノ」ではなく「ヒト」と「ウツワ」である。ちなみにアメカジショップでバイトをしていた学生時代は、着てみたいアイテムはどれも高くてなかなか買えなくて、初めて買って着たフリーホイラーズ&COはリンガーTシャツだったとか。リンガーTに古着のジーンズをはいてコンバース。いつもそんな格好ばかりしていてキャンパスでも浮きまくりで、親からも「もうちょっと女の子らしい格好をしなさい」とよく言われていたそうだ。

いまでは展示会に行ってもコテコテのアメカジ野郎ばかりの展示会場で、まさにアイドル的存在である。アメカジの着こなしやブランドの知識や薀蓄(うんちく)を、年上のオジサンバイヤーたちから教えてもらうのが楽しくてしょうがないとか。今年の夏には念願かなってアメリカ西海岸に出張して、ヴィンテージ雑貨の買い付けをしてきた。

そんなキュートなアメカジ店長カヨちゃんに接客してもらいたくて、クランプには休日ともなると夫婦で来店するアメカジ好きや、カヨちゃんファンのハーレーにまたったガチでアメリカンなオジサンたちがツーリングの帰りに来店して、店の前の駐車場はハーレーが何台も停まったりするのだそうだ。

「アエラスタイルマガジンの読者にも、いつもスーツスタイルばかりじゃなくて休日にはぜひアメカジを楽しんでいただきたいです」

そう言って、カヨちゃんがセレクトしてくれた王道のアメカジアイテム。全身コテコテのアメカジは男脂臭がしていただけないが、どれか一点、いつものワードローブに投入するだけで、実はピッティのイタリアオヤジみたいにおしゃれになります。ぜひ♡

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フリーホイラーズ&COの定番アイテムのシャンブレーシャツ。こういうものは何枚あってもいい。着込んでからあえてスーツに合わせて着ても面白い。¥23,760

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オルテガに別注した珍しいブラックのサンダーバード柄のチマヨベスト。ポケット付きなのでオッドベストのようにジャケットにインして着るのもおしゃれだ。¥99,360

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フリーホイラーズ&COのダック地オーバーオール。今シーズンのトレンドアイテムでもあるオーバーオールはぜひトライしたい。合わせやすいダック地がオススメだ。¥59,400

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米国のワークシューズブランドの最高峰、ホワイツから、履きやすいスウェードのオックスフォードタイプ。これぞまさに一生ものといえる一足だ。¥86,400

掲載した商品はすべて税込価格です。

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プロフィル
いであつし(いで・あつし)
数々の雑誌や広告で活躍するコラムニスト。綿谷画伯とのコンビによる共著『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)などで、業界関係者にファンが多い。

この人から買いたい。[第3回]マスマティクス はこちら>>

Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Atsushi Ide

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