旅と暮らし

エネルギーをもらえるホテル、
ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄
[約束された場所]

2019.03.13

山本晃弘 山本晃弘

エネルギーをもらえるホテル、<br>ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄<br>[約束された場所]

ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄の総支配人である野口弘子は、伝説のホテリエである。ハウステンボスのホテル群、ザ・ウィンザーホテル洞爺、パークハイアット東京、ハイアットリージェンシー箱根リゾート&スパ。立ち上げやリニューアルに携わってきたホテルの名前を挙げていくと、どれもが時代を画したものばかりだ。

パークハイアット東京では、ソフィア・コッポラの映画『ロスト・イン・トランスレーション』の撮影から封切りに伴うホテル側の広報を取り仕切った。2006年にハイアットリージェンシー箱根リゾート&スパのオープンに際しては、「外資系ホテル初の日本女性総支配人」として注目を集めた。

「30年前、20年前に出会って、いまでも助けてもらっている人が大勢います。それが私の人生の財産」。東京から着いた私たちには“ほんわり”と明るく感じられる沖縄の光、ロビーにすっくと立つ野口弘子は静かに語る。

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実は彼女、マメな人間ではない。クリスマスカードや年賀状を多くの人に毎年送る、そういったタイプのホテリエでは決してないのだ。でもなぜか、お付き合いが長く続くお相手が多い。「野口さん自身が人を引き付ける魅力があるからじゃないですか?」と水を向けても、「いやいや、私が不精だから周りに支えてもらっている」と目を伏せる。

先に述べたホテルのいくつが一世を風靡(ふうび)したのは、まさにバブルと呼ばれた時代。いいことばかりだったわけではない。ザ・ウィンザーホテル洞爺では、当時のオーナー企業であった北海道拓殖銀行が経営破綻して、ホテルをクローズする経験もした。ロビーの灯を消して最後に真っ暗になった瞬間に、これではいけないと思ったという。「ホテルはその土地に根差していかなければいけない」。

2018年、ここ沖縄に新たなホテルを開業するときにもそれが頭をよぎったという。ホテルとは、不動産オーナーや開発会社から莫大な投資を受けて「最大限に価値を上げてほしい」と期待されるビジネス。価値を上げる唯一の方法は、「お客さまにホテルを愛してもらうこと」。土地の歴史、文化、雇用、未来。期待を裏切らない、これが野口の信念である。

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いま彼女は、沖縄での新たなチャレンジの途上にある。ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄は、恩納村の瀬良垣島にあるまったく新しいホテル。344室もの客室を有する大型リゾートホテルの総支配人として、陣頭指揮を執っている。

「今回もまた、いいホテルを作りたいという思いはありましたか?」と質問を投げかけると、15秒ほどの間があって、答えは「いいホテルというか、ほかと何かが違うホテルを作りたい」。多くのリゾートホテルが既にある沖縄で、難しいことであるのは想像に難くない。しかし彼女は、「難しいです。でも、これが私のチャレンジ」と言い切る。

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たとえば、ホテルのレストランで使われているのは沖縄特有の焼き物「やちむん」である。多くの枚数のお皿は作れないとホテルの大量購入を断られつづけた。ところが野口自らがある窯元を訪ねた際、地元紙に掲載された野口のコラムを読んでいた窯元のご夫妻が共感し、手を貸してくれたという。お造りで出されるマグロは、実は沖縄の名産。地元で揚がったものだから、冷凍されないまま届く。沖縄ならではの柑橘類、たんかんを器に使ったお料理。プツプツとした歯触りで新鮮さを実感する海ブドウ。土地の文化を大切にしようと決意した彼女の思いは、こんなところにまで行き届いている。

「きれいな海とか、きれいなビーチとか。景色に頼りたくない」。そこで働く人、サービス、中身。つまり、コンテンツこそが「ほかと何かが違う」ホテルへの唯一の道であると見立てているのだ。海に360度囲まれた、島全体をリゾートして楽しめる立地や施設。「それがいちばんいい状態なのは、開業のとき。そこからもっともっとよくなるとしたら、中身しかない」と、日々アイデアを思案しつづける。

キラキラしたアイデンティティーを持ったほかと違うホテルを作るのは、「ほんとうに難しい」というのが野口の正直な気持ちだろう。ただ、その解を出すヒントは彼女自身が旅をするときのホテルの選び方にある。「目的があって、こんなふうに泊まりたいと思ったときに、じゃあこのホテルだなと自分の気持ちとピタッと一致させたい」。マイホテルとして選ばれるホテルの条件は、いわば、モチベーショナル・デスティネーションであることだろう。

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ふわとろゴーヤチャンプルー

3月17日から、ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄で新しいコンテンツがスタートする。「シラカチ・炉端」が料理プロデューサーに迎えるのは、12年連続ミシュラン三つ星を持つ東京元麻布の日本料理「かんだ」のオーナーシェフ神田裕行氏。長い歴史と伝統を有する琉球料理に敬意を表しながら、「感動するくらいのおいしさ」を目指したメニューが提供される。ふわふわ、とろとろの卵の下にチャンプルーが隠れた「ふわとろゴーヤチャンプルー」は、目にも舌にも新しい。「世代を超えて楽しめるメニュー。お子さまも、30代~40代も、シニアも。みんなでリゾートに来ておいしい料理を食べて盛り上がりたい。そんな目的で、このホテルに泊まりに来てほしい」と考えられたものだ。

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久しぶりにお目にかかった野口弘子は、恩納村瀬良垣に住民票を移して、すっかり沖縄の人になっていた。沖縄に限らず、リゾートホテルの総支配人が現地に住民票を移すなんていう話はそうそう聞かない。「野口さんは、日本における女性ホテリエの地位をずっと向上させてきましたよね?」と、思い切って尋ねてみた。「そんなつもりは、まったくありません」。彼女の目指すところは、一貫してぶれていない。「地域を発展させないと。ホテルや、ましてや自分だけがうまくいけばいいわけではありません」

このホテルの総支配人にとオファーを受けたのは、2017年1月。開業まで1年半しかなかった。オファーを受けてすぐに、こっそりとひとりで瀬良垣を訪れたという。「10年以上も箱根のハイアットリージェンシーで女将(総支配人)をやっていた山ガールだから、正直に言うと最初はピンと来なかった」。それがレンタカーで瀬良垣周辺をドライブするうちに、違和感は消えていったのだという。「運命だったんですかねぇ。沖縄のよさを伝えたいと思ったんです」。運命は、英語でDestiny。そのときの野口の目指すべきモチベーショナル・デスティネーション(Destination)は、この場所だったのだろう。いまハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄は、「リラックスと同じくらいに、エネルギーがもらえるリゾートホテル」を目指している。

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お客さま、地域の人たち、そしてホテルのスタッフ。長いインタビューで話をゆっくりと聞いていくと、ホテルを大きな家族のようなものだと野口弘子は考えているのかもしれないと思えてきた。彼女が紡ぐ現在進行形のモノ語りは、まだ始まったばかり。

「ようやく土を耕して、種をまいたくらい。常にファインチューニングしながら、一日一日焦らずにやっていきます」

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ハイアットリージェンシー 瀬良垣アイランド沖縄
沖縄県国頭郡恩納村瀬良垣1108番地
098-960-4321
www.hyattregencyseragaki.jp

Photograph:GENKI

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