お酒
男と酒。[後編]
俳優はBARにいる。
――岸谷五朗、新宿を呼吸する――
2019.11.26
「魅惑の地で徘徊し酒(さけ)る」
作・岸谷五朗
令和の新宿になり初めての徘徊(はいかい)は当たり前のように新宿二丁目へと向かわせていた。沢山(たくさん)の著名人が足繁く通った店、アイララ。小さな店が多いこの界隈(かいわい)は生ビールの置いてある処(ところ)は数少ない。まずはカールスバーグで息を吹き返す。金子國義さんの絵が無造作に転がりコンガやタンバリンが乱雑に存在感を醸し出していた。全てが無くてはならぬ物のような気がした。店のカウンターに居るだけで体中の皮膚呼吸で歴史を感じようとする。瞳を閉じればマッカランから氷を転がす音が響き過去へと誘(いざな)ってくれる。
賑(にぎ)わう店内……。時代に一石を投じた大御所たちの若い時代、酒と共に流し込まれた会話は一体どんな魅力溢れる言葉たちであったのだろうか……。
ふと天井に目を移すと、小さな昔ながらの無くてはならぬミラーボールが「まだ生きてますよ」とばかりにこれ以上無いスローな動きで回転していた。回転は時間をゆっくりと静止させる……。ミラーボールの一枚一枚の小さな鏡に、若かりし頃のギラギラした唐十郎さん、野田秀樹さん、タモリさんなどが時代を超えて映っている……、AILARA が映っている。今夜、初来店した男も、一枚のミラーボールの歴史の破片に一瞬だけ映れた。
また今夜、たまらない時間と共に…… 酒(さけ)った。
岸谷五朗(きしたに・ごろう)
1964年生まれ。19歳から劇団スーパー・エキセントリック・シアターに在籍し、1993年「月はどっちに出ている」で映画初主演にして多くの映画賞を受賞し高い評価を集め、以降テレビ・映画での活躍度を高める。94年に寺脇康文と演劇ユニット「地球ゴージャス」を結成。出演以外に演出・脚本も手がけ、毎公演ともソールドアウト、2018年の作品「ZEROTOPIA」で動員数100万人を超えた。2020年には、ダイワハウスspecial地球ゴージャス二十五周年祝祭公演「星の大地に降る涙 THE MUSICAL」が控える。
「アエラスタイルマガジンVOL.45 WINTER 2019」より転載
本誌にはWebでは掲載していない岸谷五朗さんの写真も多数掲載!
Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair: AKINO@Llano Hair(3rd)
Make-up: Riku(Llano Hair)
Text: Mitsuhide Sako(KATANA)