岸谷五朗が紡ぐショートストーリー
神々の国、伊勢志摩にて――。【02】
2019.12.03

驚いた……夕日は沈んでもまだなお、伊勢志摩の空を染め続ける。美しく沈んでしまった今日という一日の責任を終えた太陽が、これでもかと! 諦めるものかと! 空を赤とも朱色とも言えぬ「熱」という色でギリギリ最後まで燃え尽き染め上げる。限界まで照らし続ける。……涙が溢れていた。さっきとは違う熱い意志を持った涙のような気がした。

自分へのプレゼントは最上級の海の幸。ゆったりとした時間を料理と共に味わい過ごす。今までどうやって食事をしてきたのか思い出せない……。
そして神様の宿る地で愛され創られた酒と出会う。白ワインのようでいて実は、かけ離れた味わい。ストレートに「純粋」が体の中を侵食していく。その酒は、「半蔵」。東京サミットで各国首脳を唸らせた乾杯酒であった。
ゆっくりと穏やかにワイングラスから唇を通過した日本酒「半蔵」が過去を浄化するように体の芯に落ちていく。瞳を閉じて思い出と共に……酒った。
晴天に恵まれた翌日、私の体は跳ねるように「賢島駅」に向かっていた。
改札でもう一度、振り返ってみた。伊勢志摩の風が髪を心地よく揺らし、ゆったり微笑んでいる……。
私は、来た時とは正反対に、しっかりした足取りで確かめるように電車に乗った。

母に荷物を送り返してもらうように頼むため、ラインを開いた。そう、ポケットには、東京行きの切符が入っている。……そうだ、東京帰りにもう一箇所だけ寄り道をしよう。深い愛情に包まれて育てられた「半蔵」。私に勇気を与えてくれたお酒。その酒蔵に立ち寄り、そっと酒樽に触れて「ありがとう」と呟きたくなった。

Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair: AKINO@Llano Hair(3rd)
Make-up: Riku(Llano Hair)
Text: Mitsuhide Sako(KATANA)