特別インタビュー

デキるビジネスパーソンが実践する「話題」の選び方
世界で恥をかかないために!
ビジネスマナー&イメージ戦略 第2回

2020.01.06

デキるビジネスパーソンが実践する「話題」の選び方<br> 世界で恥をかかないために!<br> ビジネスマナー&イメージ戦略 第2回

国際イメージコンサルタントとして国内外で活動する安積陽子が、世界を拠点に活躍するビジネスパーソンのリアルな声をもとに「国際化のいま、知っておきたいマナーやビジネスのヒント」について紹介していく──。

あなたは2時間の食事が豊かなものになる話題を、どれだけ携えていますか? ビジネスでの会食や、パーティーでの話題のセレクトは、人間性やセンスが感じられるもの。まずは、話題選びや考え方のヒントにもなる、興味深いお話を紹介します。

シンガポール在住12年の女性。現地で弁護士として活躍し、人脈も豊富な人物です。彼女は社交の場で有益な人脈を広げていくためには、「自分に関する意外な情報を、いかに相手の記憶の中に残しておくことができるか」ということが大切だと言います。

容姿は非常に女性的。しかし、イメージとは真逆の、日曜大工を趣味としている彼女は、男性に対しては手軽に始められる趣味の小部屋作りについての話題を提供し、女性に対してはインテリアやガーデニングなど、相手の趣向に話題を合わせ、役立つ情報を必ず伝えるようにしていると言います。「女性×大工」という、印象に残るブランディングと、相手のニーズを満たすことで記憶に残りつづけるよう、話題のセレクトも意識しているというのです。

実は「記憶に残る会話を意識することの重要性」は、これまでインタビューをしてきた国際派ビジネスパーソンの多くが、男女問わず共通して指摘していた点です。イギリスに赴任中、取引先の奥さまからアフタヌーンティーへ招待された際に、事前に作法の勉強をして奥さまからの評価を上げ、プライベートでも家族から信頼を得たことによりビジネスを好転させたという男性もいます。また、たしなむ量が限られていても、葉巻やハードリカーに関する豊富な話題をもち、ウイスキーや葉巻の織り成す世界観の楽しみ方を知っている女性も、意外性があって魅力的です。

相手の記憶に残る話題のセレクトは、相手にとって興味深い話題をどれだけ引き出せるかがポイントと言えます。とくに国際的な交流の場では、事前に相手の国に関しての知識や、音楽や芸術、料理や趣味など、世界共通のトピックからいくつか場を盛り上げるための話題を用意しておくといいでしょう。相手の興味が深い分野の話題からは、今後のトピックの材料となる情報を得られることも、会話の面白さと言えます。

例えば、英国人との会食の場合、自宅のマンションの狭いスペースであれ、観葉植物や花を育てている話題を持ち出してみれば、ガーデニングが日々の生活に、どれだけ豊かさを与えてくれるかを話してくれるかもしれません。また、フランス人との会話では、ルーブル美術館やオルセー美術館、ロダン美術館の話をすれば、フランスがいかに芸術と密着した生活を送っているかを、誇らしげに語ってくれるかもしれません。相手が話したいという点にフォーカスを当てた話題づくりは相手の自尊心を高め、あなたの感性、知識や実体験に裏付けされた会話こそ、相手の記憶に深く残るのです。

相手の自尊心を高めることは、どのような効果をもたらすのか。人間の心理は今も昔も変わらないようです。最後にもうひとつ、自尊心に関する興味深い逸話を紹介します。

19世紀のこと、イギリスの首相争いをしていたウィリアム・グラッドストン氏とベンジャミン・ディズレーリ氏の2人の政治家と、それぞれ別の日に夕食をともにした、ある若い女性がいました。2人と食事を終えた後に、彼女にそれぞれの人物の印象を聞くと、「グラッドストン氏と同席した後、私は彼こそイギリスで最も頭のいい男性だと思いました」と答え、「しかし、ディズレーリ氏と同席した後、私自身がイギリスで最も頭のいい女性だと思いました」と答えたのです。さて、その後の首相選挙はどちらが勝ったのでしょうか?

自分が有能であることを示したグラッドストン氏、対して相手の女性が有能であることを感じさせたディズレーリ氏。選挙の結果、イギリスの首相に選ばれたのは、相手の自尊心を高め人々をひきつける資質を備えていた、ディズレーリ氏でした。

この逸話からもわかるとおり、自分の評価を高めるためではなく、相手の時間の質を高めるために振る舞える人こそ、心にも深く記憶され、評価されるということがわかります。よほどの弁士でない限り、話題というのは自然と出てくるものではありません。だからこそ、会話のベクトルを自身に向けるのではなく、話し相手や広い対象に関心を持って聞く姿勢と、自信を持って、魅力的に語ることが大切。「自分本位」ではなく「相手本位」。相手への敬意や興味を持った自身の姿勢こそが、心地よい空間を創造するのかもしれません。

安積陽子(あさか・ようこ)
アメリカのシカゴ生まれ。ニューヨーク州立大学でイメージコンサルティングの資格を取得。2005年、Image Resource Center of New York社で各界の著名人への自己演出トレーニングを開始。09年、同社の日本校代表に就任。16年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立、非言語コミュニケーションのセミナーや研修、コンサルティングを行う。著書に『CLASSACT(クラス・アクト)世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養』『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』がある。

Illustration: Michihiro Hori

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