特別インタビュー

銀座から東北の空へ、鐘の音と共に時計の針が刻んだ希望

2021.03.17

銀座から東北の空へ、鐘の音と共に時計の針が刻んだ希望

「出来事」の代名詞となる時刻がある。

この10年で日本人にとっていちばん記憶に残るものは「午後2時46分」だろう。言うまでもなく、2011年3月11日、東日本に甚大な被害を与えた大震災の発生時刻だ。厳しい耐震基準により建物の損壊こそ最小限に食い止められたものの、想定外の津波は東北の沿岸部を襲い、多くの建物を瓦礫(がれき)にし、万単位の死者・行方不明者を出した。晩冬のこの時刻は多くの日本人の胸に刻まれている。

屋上に時計塔を頂く銀座・和光では、毎年この日この時間に黙禱(もくとう)の意を込めて1分間の鐘を鳴らしてきた。10周年となる今年は節目として、3月6日から11日にかけてショーウィンドーに時計のディスプレーが飾られた。文字盤の針は2時46分を指して止まったまま。掲示の最終日である11日には特別なインスタレーションが行われた。ブルーの文字盤が暗くなり、光がまたたき、同心円に広がった後、新たな輝く針のフォルムになって動きだす。そんなドラマチックな演出に道行く人の視線が釘付けとなった。

この文字盤は屋上と同じサイズであり、色も合わせているという。

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「時計塔の実際の文字盤は白いのですが、太陽の光とガラスの効果で青く見えます」と語るのは株式会社和光のデザイングループの武蔵 淳氏。「見上げる位置にありますから、私としては空を映していると考えています。ですからウィンドーの文字盤もブルーにしました。遠く東北の空へとつながるイメージですね」

この映像とシンクロするように流れたのが、アーティスト・蓮沼執太氏による「未来への希望の鐘」だった。

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(左)アーティスト/蓮沼執太 (右)和光・アートディレクター/武蔵 淳

「音楽は被災などに対して素早く反応できる芸術です。ただ自分は、震災時にアーティストとして参加することはありませんでした」と語る蓮沼氏は、その後に何度か東北へと足を運び、10年の間にさまざまな思いを積み重ねていく。今回の依頼で、初めて震災に“音”で向き合うことになった。「ただ作曲するだけでは物足りなく思い、SNSを通じて多くの人から鐘の音を送ってもらい、音作りの参考にしました」

鐘は古くから多くの国で生活に根付いており、宗教的な意味合いも大きい。蓮沼氏は寄せられた音を元に、すべてを受け入れるニュートラルな旋律を書き上げた。シンプルだが奥の深い響きは、ウィンドーの映像と相まって、さらにエモーショナルな余韻を残したはずだ。

「時計は時の記号ですから、時間を意識させます。今回は時計が地上で直視する位置にあることで、見る人にダイレクトに届いたと思います」(蓮沼氏)

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銀座・和光の代名詞とも言える時計塔の鐘の音は、ほぼ銀座の全域で聞こえる。それは銀座から受け取ったものを銀座に返すという信念があるからだという。そして、この日の音は銀座から日本全国に響かせたいという思いが込められていた。

忘れられない一瞬から、少しずつ刻む希望の一分。「まだ」と「もう」が交差する10年目、銀座目抜き通りの鐘は、多くの人の心に静かにして心地よい波紋を広げたに違いない。

Text:Mitsuhide Sako(KATANA)
Photograph:Yuki Okishima

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