靴
フレンチトラッドと英国製ローファーの関係。
2022.04.11
ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
初めて手に入れたジョンロブの靴は、『ロペス』という名のローファーだった。当時所属していた雑誌の編集長からいただいたモノだ。どうしてあんなに高い靴をタダでもらえたんだろう?と思い起こしてみたら、時代は折しも〝ちょい不良〟ブームの真っただ中。ブーツカットのセレブジーンズ(死語)にロングノーズ靴の全盛期で、その火付け役だった編集部内ではトラッド靴を履くなんてご法度。編集長としては、「こんなトウの丸い靴を履くことは二度とない」と踏んだのだろう。 しかし時代の気分というのは面白いもので、リーマンショックを経て、ファッションの潮流はトラッドへと回帰。以来『ロペス』は、僕のワードローブの第一線で活躍しつづけている。
正直言って、「なんだか普通の靴だなあ」というのが第一印象。しかし履くほどに気付かされるのが、この靴の魅力。レザーのクオリティーは圧倒的だし、縫製も繊細。しかもアッパーのつま先からヒールにかけては一枚革を使っているから、見た目が断然シック。カジュアルはもちろんのこと、スーツに合わせても全く違和感がないのだ。
この春、そんな大好きなローファーを、もう一足手に入れようと狙っている。なぜなら近年『ロペス』には、とても返りがよく、クルマの運転にぴったりの〝テンシルコンストラクション〟バージョンが登場。しかも今季は、目下再注目されているフレンチトラッドテイストの着こなしに合う、スエードのバイカラーもたくさんラインアップされている。実を言うと僕は、そのなかのひとつであるオフホワイト×ベージュと全く同じ配色の、シトロエン『2CV』を入手したばかりなのだ。クルマも靴も同じ配色なんて、最高に粋じゃないか! そういえば『ロペス』は、1990年代のフレンチトラッドブームのときにも、憧れの一足として君臨していたらしい。うーん、やっぱり時代は巡る。僕は絶対に『ロペス』 を手放しませんよ、編集長!
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。
Photograph: Fumito Shibasaki(DONNA)
Styling: Eiji Ishikawa (TABLE ROCK.STUDIO)