週末の過ごし方
薩摩隼人が仕掛ける
アートと食の融合、NYを席巻!
【センスの因数分解】
2022.06.02
アートにおいても、レストランにおいても、ニューヨークは世界最大の拠点のひとつと言って間違いはないでしょう。このアートと食の一大拠点で、全く新しい試みに、最も困難なタイミングでチャレンジした日本人シェフがいます。
レストラン『Odo』のシェフ、大堂浩樹さんの料理人としての人生は順風満帆でした。鹿児島県出身の彼は、京都や東京の名店を経て渡米。ニューヨークにある精進料理店『Kajitsu(嘉日)』の料理長を4年務めた後に、2018年フラットアイアン地区に懐石料理の店をオープンさせます。
自身の名を冠にした店はすぐ話題となり、最も注目すべき新店舗として『ニューヨーク・タイムズ』がフィーチャー。翌年にはミシュラン一つ星も獲得します。挑戦はそれだけにとどまりません。
「かねてより、アートと食を融合させてみたいという思いを持っていました。『Odo』の隣の物件が空いていたので、構想を実現させてみようと思ったんです」
その実現への道程は順風満帆とは程遠いものでした。契約の直後にコロナウイルスの猛威が襲います。街がロックダウンとなり、新店のオープン計画もストップを余儀なくされました。そんな紆余曲折の後、『THE GALLERY』は2021年春オープンしました。『THE GALLERY』は、一般的ギャラリー同様、アート作品の展示空間。しかしランチとディナータイムになると、今度はレストランとして、訪れたゲストたちは作品に囲まれながら、料理を楽しむことができます。コースは開催中のエキシビションやアーティストをインスピレーション源として、展覧会ごとに大堂シェフが構築。『THE GALLERY』では作品を目だけではなく、味や香り、さらに温度でも体感できるようになっているのです。常に刺激ある試みが繰り広げられてきたニューヨークでも、このような場はほかに類を見ないとか。そんな革新的な挑戦が、日本人シェフにより誕生しました。
「アートが壁に飾られたレストランは多くありますが、ギャラリーそのものがレストランになるという試みは、ニューヨークでも賛否両論でした。支持する人がいれば、“アート作品を前にして飲食とは”と顔をしかめる人もいます。しかし私は、アートと食が交差する場を作ることで、新しいコミュニケーションの機会を生み出したかったんです」
『Odo』では季節の食材に合わせて料理のメニューを作ればいいけれど、『THE GALLERY』ではそのほかにアーティストやアート作品という縛りが発生。料理人としてのハードルが増えることになり、大堂シェフ自身もはるかにやりづらいと言います。芸術作品と飲食の距離が近すぎることに異を唱える人も。それでも実現させたいという大堂シェフの強い思いの底には、現代を覆う社会の構造への違和感がありました。
「アートも食も、経済や効率ばかりが重要視されては、ユニークなものがどうしても生まれにくいと思います。昔からニューヨークのアーティストが、資本ではなくユニークなことを求めてきた結果が、この街の魅力にもなってきた。そんな歴史を新たに担うようなおもしろい場所に、ここがなっていければと考えています」
図らずもパンデミックでの挑戦となり、ビジネスを考えれば相当大変なはず。「大変だからこそ、人の好意がことのほかありがたいです」と大堂シェフ。アートと食の中心地で、誰もやったことのない試みを、誰も経験したことがない状況下で立ち上げる。『THE GALLERY』のパワーが、The Cityの新しいムーブメントを生むかもしれません。
THE GALLERY
17W, 20th Street New York, NY
https://www.odogallery.nyc/