週末の過ごし方
福島・双葉はアートと
ものづくりで蘇(よみがえ)る
【センスの因数分解】
2022.06.08
福島第一原発の事故から11年、双葉町は県で唯一、いまだに全町避難が続いています。今年目黒区に燗酒専門の料理店『高崎のおかん』をオープンさせた高崎 丈さんは、この福島県双葉町出身。昨年、アートをはじめとした個性豊かな復興をスタートさせました。
「ある日、お客さまでアートプロジェクトを手がけている方がいらしたんです。マナー違反かと思ったんですが、カウンター越しにぜひ双葉でもと口説きました」
その人物とはOVER ALLsの赤澤岳人代表。話は進み、アーティストの山本勇気副代表と共に双葉町を訪れ、かつて店鋪があった双葉駅前の壁面に作品を描いてもらうことになりました。
「しかしいざ現場に行くと、山本さんから“この場で感じる事柄が多すぎていま壁面に画を重ねることができない”と言われたんです。そして出直すこととなりました。言うのは簡単ですが、東京から往復8時間の道のりです。それなのに彼は、再び時間や労力をかけて、真摯(しんし) にこのプロジェクト(PJ)に向き合ってくれました」
2度の訪問を経て2021年6月に完成したのが、“HERE WE GO”のメッセージと地面を指差す手の作品。この作品が、高崎さんにとって大きな転機となりました。「視覚でしか感じないはずの壁画なのに、五感のすべてが揺さぶられたような衝撃を受けました。ひるがえって私が提供する燗酒や料理は、五感の要素を網羅していますが、それを超えられるものではないようにそのとき思ったんです。それが、『高崎のおかん』という店舗につながっていきます」
高崎さんはこのアートから始まるともしびを消してはならぬと、さらに動きます。双葉町に会社を設立。現在はアートPJと並行し行政への働きかけや、仲間と一緒に“クラフトジンふたば”という再生応援ジンを造るなど精力的に活動をしています。ひとりの故郷への思いからスタートした取り組みは、次第に町の希望に様変わりしてきたようです。
「地元の人たちが協力し合ってリデザインしていこうという気運が高まり、少しずつプレーヤーが集まってきています」
現在双葉町は、6月の避難区域解除を目指し、官民一体となって準備にあたっています。まだまだ課題は多いなか、高崎さんのように“理屈抜きに訴えかけるなにか”に動かされ、行動を起こす人も増えています。故郷を追われて十余年、双葉町の民と未来に幸あれと願うばかりです。
高崎のおかん
東京都目黒区青葉台3−10−11 青葉台フラッツ 101
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