SHOWCASE
サンマとイワシ、そしてワラビー。

2023.06.15

ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。

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往年のアイルランド製ワラビーを忠実に再現しつつも、ライニングレザーを装着することで履き心地はぐっと改善。色数の豊富さも魅力。各¥17,600/ロイドフットウェア(ロイドフットウェア銀座 03-3561-8047

行きつけの居酒屋で、すっかり高級魚になってしまったイワシの刺身やサンマの開きを前に、ため息をつく今日この頃。同じことはファッションの世界でも起きていて、ぼくが若い頃は大衆的な存在だったモノがいつの間にかラグジュアリー枠に入れられていたり、生産国が変わっていたり、そもそも世の中から姿を消していたりして、手に入れづらくなったケースが年々増えている。この現象は産業構造の変化に由来するので、残念ながらぼくたちにできることはないのだ。

その象徴的な靴と言えるのが、かつて英国のブランドがつくっていた、ワラビーやデザートブーツだ。もともと英国陸軍が砂漠を行軍するために開発されたこれらの靴は、柔らかいスエード素材のアッパーと、ナチュラルゴムのクレープソールを、ステッチダウン製法で縫い付けた、素朴なルックスとつくりが特徴。英国やアイルランド製で1万円台というリーズナブルな価格も相まって、20年くらい前までは、トラッドシューズの大定番として、幅広く親しまれていた。しかし今やもともとの工場は閉鎖され、アジア生産にして価格は2万円台に上昇。カタチ自体もずいぶん変わってしまった……。

そんな状況に一石を投じてくれたのが、1972年に創業し、半世紀にわたってわれわれ日本人に英国靴の魅力を教えてくれた名靴店「ロイドフットウェア」だ。こちらは長年の研究の末、スペインの工場を使って往年のワラビーやデザートブーツを復刻。しかも何もかもが値上がりしているこのご時世に、20年前とほぼ同じ価格を実現しているというから、ありがたい限りだ。最近のものとは違う、少しシュッとしたシルエットに気づいた人は、おそらくぼくと同世代。一生困らないように、まとめて買っておこう。

山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。『MENʼS Precious』などのメンズ誌の編集を経て、独立。現在は『文藝春秋』のファッションページ制作のほか、webマガジン『ぼくのおじさん』を運営。

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アエラスタイルマガジンVOL.54」より転載

Photograph: Ryohei Oizumi
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)

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