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『マスクガール』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #59

2023.10.26

『マスクガール』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #59

Netflixの国内ランキングには「韓国ドラマ」が常にランクインし、バズを連発している昨今。またしても韓国から世界的大ヒット作が誕生した。ルッキズムが蔓延している現代が引き起こした悲劇……。現在進行形の社会問題をふんだんに取り入れた作品なだけに、いま観なくてはならない衝撃作だ。

キム・モミは、幼少のころから人に注目されるのが大好きだった。将来は芸能人になりたいと願っていたが、成長と共に顔にコンプレックスを抱きはじめ、いつしか夢のまた夢となってしまった。会社員になり、女性蔑視発言をしまくる上司たちに囲まれ鬱屈(うっくつ)した毎日を送っていたが、生まれ持った承認欲求を押さえることができなかった。

そこで彼女は、コンプレックスである顔をマスクで覆い、抜群のスタイルを生かしたセクシーな衣装を身にまとい、ライブ配信者として活動をはじめる。セクシーなダンスやゲームでたちまち多くの視聴者をゲットし、ネットに興味がない人々にまで知れ渡るほど、人気配信者になっていった。

しかし、あることがきっかけでキム・モミの人生は狂いはじめる……。

『マスクガール』は全7話とコンパクトながら、ジェットコースターのような速さでキム・モミの人生を駆け巡る。かなり濃密なストーリーに加え、ほかの登場人物の過去にまでさかのぼり、人格形成に至るまでのできごとまでしっかり描いてしまうのだからすごい。

コメディ? 逃亡劇? 復讐劇? ホラー? サスペンス! とあらゆる要素を取り込み、まったくと言っていいほど隙がない濃密な人間ドラマに加え、予測不能な展開ばかりで度肝を抜かれてしまう。

『マスクガール』で描かれるルッキズムによる問題は、数あるドラマや映画のなかでも身近でありながら、根深いものがある。日々暮らしていくなかで、外見が良かったらこうはならなかったのに……と感じてしまう瞬間は、キム・モミに限らず、私たちの日常でも起こりうるものばかりだ。

電車内で触られたと訴えても「お前なんか触るか!」と言われ、会社の飲み会では、二次会に来なくてもいいよと言われ、仕事はできるのに、いつも美人で気が利く同僚と比較されてしまう。他人の悪気のない、心無いひと言の積み重ねで、どんどん自己顕示欲は失われてゆくのだ。

たとえマスクをかぶって人気者になったとしても、私はマスクがなければなんの価値もないというネガティブな思考になってしまう。SNSで他人の生活を簡単に見れてしまう今、比較せずに自分らしく生きてゆくのは、容易なことではない。

ルッキズムをはじめ、デジタルタトゥー、性被害、毒親、いじめ、貧困、ネットストーキングなど、さまざまな社会問題を取り入れていることから、ダークな雰囲気なのは間違いないが、要所要所に独特で滑稽なブラックユーモアや、ド派手な演出が急に現れてくるので、一向に飽きることなく一気見してしまう。

これだけ構成が複雑ながらも、違和感なくまとめてしまう奇想天外な脚本はもちろん、監督まで務めたキム・ヨンフン氏のこれからが楽しみで仕方がない。

爆速で転がり堕ちてゆく人生のなかでも、守るものができれば、人は変われるのかもしれない。狂いだした人生のなかで、強くたくましく生き抜いてゆくキム・モミをぜひ、見届けてほしい。『マスクガール』はNetflixにて配信中(全7話)!

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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