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『エクスパッツ』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #68

2024.03.21

『エクスパッツ』<br>いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #68

ニコール・キッドマン主演・製作総指揮&ルル・ワン監督という、最高にエキサイティングなタッグの新作がAmazon Prime Videoにて独占配信された。

ルル・ワン監督は映画『フェア・ウェル』で監督・脚本を務め、単館上映から口コミで評判が広がり、後にA24で配給され全米トップ10にランクインするほどの大ヒットを飛ばした実力派監督として注目されている。

『フェア・ウェル』ではルル・ワン監督の実体験を基に、中国系アメリカ人と中国人との文化間の軋轢(あつれき)を描いたが、本作も中国系アメリカ人であるルル・ワン監督だからこそリアルに描くことができる“文化の違い”に焦点を当てた作品となる。

香港に住む3人のアメリカ人女性、マーガレット(ニコール・キッドマン)、ヒラリー(サラユー・ブルー)、マーシー(ジヨン・ユー)。この3人の共通点は、異国で育ち、それぞれの事情で香港に住んでいるということ。そして、ある“悲劇”の関係者だということ。

マーガレットは夫の仕事のためとはいえ、香港で暮らすことをあまり快く思っていなかった。高級マンションに住み、家政婦に家事や子育てを任せていても、友人や仕事ができないことに不満を感じていた。

ヒラリーはマーガレットと同じマンションに住み、同じく裕福な暮らしをしている。インドにルーツを持つ彼女は、子どもを持つことに不安を感じている。夫婦間で子作りをしようと話し合ったものの、まだ自分の気持ちが追いついていない。

マーシーはコロンビア大学を卒業し、母親と距離を置きたく、セレブな友人に連れられ理由もなく香港に来た。母親が韓国人であるため見た目はアジア人に映るが、中国語を話すことができない。古い安アパートに住み、アルバイトに明け暮れる日々。

物語は、被害者、加害者、両者の目線で語られる。現在と過去を行き来し、人物像がだんだん見えてくる巧妙な構成になっているため、登場人物たちの新しい一面を見るたび、見方が変わっていくだろう。誰かを悪者にできれば楽なのに……。そう思えてしまうほど、あまりに心が痛む悲劇だ。

異国で暮らすうえでの差別や文化の違いなど、日常の描写が興味深いものばかり。

たとえば、友人がいないマーガレットは、やむなく香港に住むアメリカ人富裕層コミュニティーと共にしている。専業主婦が多く、家政婦や運転手がいるのは当たり前、船上パーティーやお茶会など、絵に描いたような富裕層生活をしている。

アメリカでデザイナーをしていた彼女にとってはなかなか性に合わないが、この地で生きてゆくには必要なことだったりする。不憫(ふびん)だなぁと思う半面、香港に住みながらも中国語を覚えようとせず、アメリカだったら……と常に比較。アメリカがたけていると主張するのだ。

そんな文化の違いから人物描写ができるのは、北京に生まれ、アメリカで育ったルル・ワン監督だからこそリアルに描けた題材なのかもしれない。

言葉も通じない、帰ることもできない、そんな状態で、それぞれが悲しみと向き合ってゆく。許される日が来るのか? はたまた乗り越えられるのか? この物語の結末を、どうか見届けてほしい。

<<過去の「いま観るべき、おしゃれな海外ドラマ」はこちら

Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo

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