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劇的メジャー制覇の古江彩佳、
コーチは今もゴルフ未経験だった父親……
一緒に作ったスイングは宝物。

2024.07.18

劇的メジャー制覇の古江彩佳、<br>コーチは今もゴルフ未経験だった父親……<br>一緒に作ったスイングは宝物。
写真:AP/アフロ

女子ゴルフでまたも日本人選手が世界に名をとどろかせた。今季海外メジャー第4戦・エビアン選手権(7月11日~14日、フランス・エビアンリゾートGC)で、古江彩佳(富士通)が通算19アンダーで樋口久子、渋野日向子、笹生優花に次ぐ日本勢4人目の海外メジャー制覇を達成した。2年前に海を渡って米ツアーを主戦場とする24歳。遂につかんだ栄冠の背景には、3歳から続く父親との二人三脚と“スイング維持”があった。

「入れ!」。日本語でその声が響いた直後、ボールはカップインした。瞬間、古江は右手を高く上げ、涙をぬぐった。

「プレーオフには持ち込みたくなかったので、『入れなきゃいけない』と思いながら打ったのが入ってくれて、本当ラッキーで良かったです」

プレー中は感情を表に出さないタイプだが、無意識に右手が動いていた。そして、インタビューでは声を弾ませた。

「本当に15番ぐらいまで我慢のゴルフだったんですけど、自分を信じてゴルフをやって、最後にいっぱいバーディーを取れました。ありえないぐらい本当にうれしいです」

古江は13番を終えた時点で首位に3打差をつけられたが、そこから猛チャージをかけた。14、15番でロングパットを決め、16番も含めて3連続バーディー。17番を終えて他の2人と首位で並ぶと、18番のイーグルで激戦に決着をつけた。文字どおり女子ゴルフ史に残るミラクルな勝ち方で、樋口久子(1977年・全米女子プロ選手権)、渋野日向子(2019年・全英女子オープン)、笹生優花(21年、24年・全米女子オープン)に次ぐ、日本人4人目となる海外メジャー制覇の快挙を成し遂げた。

今季はここまで16戦出場でトップ10入りが8度。パリ五輪出場権の獲得も有力視されていた。しかし、全米女子プロゴルフ選手権で山下美夢有が2位に入ったことから世界ランキングで逆転され、2枚しかない代表切符を逃してしまった。東京五輪の代表争いでは、稲見萌寧に敗れて涙を流した過去もある。そんな悔しさを抱えて臨んだ今大会で頂点に立ち、古江は「パリに行くことはできなかったですけど、しっかりこのフランスのメジャーで勝てて、気持ちは晴らせたかなと思います」と実感を込めた。

会場には古江の母・ひとみさんの姿があった。毎試合、毎ラウンドを見て、サポートを続けている。振り返ると、古江が3歳でクラブを握ったのも、ひとみさんのゴルフ練習について行ったことがきっかけだった。そして、練習相手をゴルフ未経験の父・芳浩さん買って出た。「クラブの握り方も知らなかった」が、週1回のペースで一緒に練習。古江が小学校高学年になり、大会で上位に入るようになると、練習は毎日になり、熱もこもってきたという。

芳浩さんは雑誌、テレビ番組で徹底的に技術を研究。サラリーマン家庭のため、さまざまな工夫で出費を抑えながら古江と2人で美しく、崩れないスイングを作り上げた。そして、古江は全国中学校選手権で優勝。滝川第二高時代にはナショナルチーム入りした。高卒1年目の秋には、アマチュアながら国内ツアー・富士通レディースで優勝を飾り、プロテスト免除でJLPGA(日本女子プロゴルフ協会)会員になった。

以降、プロとして勝利を重ね、好不調を経験しながらも古江のコーチは「父」のまま。理由は「私のスイングを誰よりも理解してくれているから」だった。

実は同じ関西出身の山下もゴルフ未経験の父・勝臣さんと共にゴルフを始め、今に至っている。国内を主戦場にする山下は不調になると、父から「リズムが速くなっている」「トップで少し間を置いて」などとアドバイスされ、22年から2年連続で国内ツアー年間女王になった。

古江、山下に限らず、試合会場には選手を支えてきた親族が多くいて、皆が共通して「ずっと見てきたスイングなので、少しのズレでもすぐにわかります」と話す。アドバイスを聞くかどうかは本人次第だが、この2人は今も父親に全幅の信頼を置いている。

競技を引退して久しい元ツアープロも、古江や山下が続ける父親との師弟関係を「理想の形」と表現した。

「家族だから伝えられることがあるわけで、それ以上のことはありません。そして、一緒に作り上げたスイングを維持していくことが、この先も最も大事になります」

元世界ランキング1位の宮里 藍は20歳で米ツアーを主戦場とし、2年目の07年、スランプに陥った。「米ツアーで戦い抜くにはもっと飛距離が必要」「進化しなければ」と考え、父でコーチの優さんと相談したうえで、スイング改造に取り組んだからだった。そして、試行錯誤、迷走を経て父と作り上げた元のスイングを取り戻し、復活を遂げている。

古江、山下は共に幼少期から宮里に憧れた世代。大先輩が経験した過ち、同世代選手にもいるスイング改造の失敗者から学び、「自分のスイング」を頑なに守り続けている。そして、世界トップレベルの選手になった。

古江は海外にいても、芳浩さんが日本でプレーを試合映像でチェック。注意点などを伝えてくれるという。そして、帰国すると一緒に練習へ。見た瞬間にわかる「ズレ」を指摘し、細かくアドバイスをしてくれている。そして、今大会後も古江は帰国した。国内で芳浩さんと調整し、2年前に制したスコティッシュ女子オープン(8月15日~18日、スコットランド・ダンドナルドリンクス)に臨む予定だ。古江は誰よりも心強い味方にエネルギーをもらい、再び世界に挑む。

>>渋野日向子、新垣比菜、大里桃子が復活女子ゴルフ“黄金世代”が輝きつづける理由とは。

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