週末の過ごし方
わずか3年でミシュラン三つ星を獲得。
「セザン」総料理長ダニエル・カルバート氏の料理観。
2024.11.28
「夢にまで見て追いかけたことが実現できたのですから、それはとてもうれしいです。興奮しています」と、「SÉZANNE(セザン)」の総料理長 ダニエル・カルバート氏は、『ミシュランガイド東京2025』における三つ星の受賞を素直に喜んでいる。2021年に総料理長に就任以来、22年に一つ星、23年に二つ星、そして、24年に三つ星と、最速でその階段を駆け上ったのである。今年初頭には、「アジアのベストレストラン50」でも1位を獲得し、これまでの潜在能力を一気に爆発させたかのようだ。
世界の美食都市で研鑽(けんさん)を積む
カルバート氏の料理は何しろ“おいしい”。本人も料理をするうえで、このおいしさをいちばん大切にしているという。プロフィールを簡単に紹介すると、1987年にイギリスに生まれ、16歳で料理の道に入る。ロンドン「ザ・アイヴィ」などを経て、NYの三つ星レストラン「パー・セ」では最年少のスーシェフに任命され、自由さと大胆さを学んだ。その後パリの三つ星レストラン「エピキュール」を経てフランス料理の本質に触れ、2016年香港「ベロン」のシェフになり、オリジナリティの大切さを学んだ。
そして、2021年7月「セザン」の総料理長に就任。こうした多様な食文化のなかで、自分の舌を信じ、おいしさを真摯(しんし)に追い求めてきたことが、セザンでなければ食べられない、パーソナリティのある料理を創り上げていったゆえんであろう。
時には生産者を訪ね、食材の魅力を引き出す
そのおいしさを何より生かすのは素材そのものであると言う。「何かの料理を作るために素材を集めてくるのではなく、今ここにある食材の滋味を最大限に引き出すこと、それこそが、おいしさを創り出す、最も大切なことです」と、カルバート氏は言う。そのためには週に2~3回は豊洲に通い、仲卸の人たちの話を聞いたり、忙しい合間をぬって、生産者を訪ねたりもするのだそうだ。農家が1年間かけて育てる食材への思いを聞くことはとても大切だという。
「三つ星の総料理長」としての責任
三つ星を取って、社会的にもより責任が重くなり、発言にも厚みを増したりするのではないですか?と聞くと「はい。実際、かなり忙しくなり、プライベートの時間を削られるなどの弊害は出ています。でも、お客さまからのいっそう高くなった期待に応えるためにも、ますます気を引き締めて、頑張っていかなければならないと思っています。私の若いころのように、高い目標を見据え、ストイックに挑もうとする若者は減っているかもしれません。実際ホテルという組織の中では、スーシェフと私以外は、時間的な理由で、ランチチームとディナーチームに分かれて働いています。ただ、アスリートがそうであるように、自分の技術を磨くには、ある程度の時間が必要なことは自明です。時代の流れのなかでは、その両方があっていいのだと思います」と氏は言う。
キッチンスタッフはアジア、欧米、中南米などの多国籍な混生チーム。それをまとめ上げることが総料理長に課せられた課題であるのだから悩みも多くなるというものだ。
しかしながら、たとえば、先ほどの話に出た生産者でも、後継者がいないといような問題を抱えているところもある。「私たちのレストランで使用することで、きちんと、彼らの仕事への対価を支払うことができ、そうした問題から抜け出す手助けができれば、三つ星をとったことによる、社会的な役割のひとつが果たせると思うのです」と。カルバート氏は、三つ星シェフの社会的責任においても、非常に深く考えている。今はまだ、何をやったらという具体的なことには思いを致せていないというが、しばらく日本で働くことだけは間違いがないという。ますます研ぎ澄まされるであろう、カルバート氏の料理を楽しみに出かけたい。
フォーシーズンズホテル丸の内 東京「SÉZANNE (セザン)」
TEL/03-5222-5810
https://www.sezanne.tokyo/
https://www.instagram.com/sezannetokyo/
Photograph: Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text: Hiroko Komatsu