週末の過ごし方

ふたりの兄弟が立ち上げた
「 最後の砦」大阪に現る
【センスの因数分解】

2024.12.03

ふたりの兄弟が立ち上げた<br>「 最後の砦」大阪に現る<br>【センスの因数分解】
岡本龍允(左)、竜兄弟。兄がプロデューサー、弟が演者という役割を持つという。

“智に働けば角が立つ”と漱石先生は言うけれど、智や知がなければこの世は空虚。いま知っておきたいアレコレをちょっと知的に因数分解。

「物々しく思われるかもしれませんが、ここは誰にでも開かれています。背筋は伸びる、けれど落ち着く場所でありたいのです」

阪急メンズ大阪1階に、ひときわ目を引くしつらえがあります。白い孔雀が迎える木彫の扉、ヴィンテージのランプ、ショーケースに並ぶタイマイ……。その名は『THE LAST STORE™』(以下ラストストア)。冒頭はこの独自の世界観を作り出した本人・岡本龍允(たつや)さんの言葉です。

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木彫の扉と純白の孔雀が迎える。

始まりは、彼がひとつ年下の弟・竜さんと創業した東京・神宮前の知る人ぞ知る名店『SOLAKZADE』(以下ソラックザーデ)。その顧客として何度も店に足を運んでいた阪急百貨店の森井規文専務からの誘いでした。

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ラストストアは森井専務(右)との出会いによって誕生。2025年1月にグランドオープン。

「当初は、阪急が運営する店舗の形でスタートし、僕らがトータルディレクションで参画しました。その後自分たちで運営をすることになり、現在プレオープン中で、20251月にグランドオープンします。百貨店という業態は、限界なのではないかと思われている向きがあります。しかし数寄者として己の美学を極め、さらにはそれを大衆へ向けて還元した、阪急百貨店の創始者である小林一三の精神に立ち返れば、まだまだ未来があると思いました。原点回帰し純度を上げていけば、それに勝るものはないと」

ビジネスの大切なパートナーでもある弟の竜さんとともに、龍允さんはラストストアの世界観を構築するだけでなく、さらなる研磨を続けています。

そんなふたりが育ったのも大阪の街。父は僧侶、母はクリスチャンという環境が彼らの美意識を育てました。岡本兄弟の私物も多々あるという、重厚な装飾に彩られながら静謐(せいひつ)さを感じるラストストアの空間は、彼らのバックグラウンドが投影されたものでもあるのです。

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山﨑リコさんほか、スタッフが扱うのは兄弟が世界中から買い付けたヴィンテージ。

「先ほど背筋が伸びるけれど、落ち着く場所でありたいと話をしました。それは教会や寺院も同様だと思います。僕は自分がつくる店が、教会や寺院のような存在になってほしいと思っています。そこでの信じるものとはなにかと言えば、美、です。美しい装飾品を身につける行為を儀式と見立てているような感覚なんです」

パブリックでありながら、厳かに美が感じられる場でありたいと語る龍允さん。そこから伝わる思いに、戦略という言葉は似合いません。好きなことに邁進している者が放つ純粋さを感じます。

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「僕は自分がやっていることを、ビジネスとして捉えスタートさせたわけではありませんでした。身近な興味をただただスケール大きく極めていったという感覚です。その真ん中には、衣服や装飾品がありました。それを文化として高められたら、と思っています。ラストストアはボーダーを取り払って、はみ出し者やヤバい人が集える場。雅俗を知っている人が暴れてくれる場にしたい」

はみ出し者もヤバい人も、群れることなくスタンド・アローンでいるのが常。いわば城主です。そんな城主たちがシンパシーを感じる人と出会うことがかなう場があれば、それこそ強い力を持った発信源となるのではないでしょうか。暴れるの歓迎、誰にも媚(こ)びない、けれど誰もを磨く。世界中探してもどこにもない。そんな“最後の砦”が大阪に出現します。

THE LAST STORE™
大阪府大阪市北区角田町7-10 阪急メンズ大阪1階 予約優先

「アエラスタイルマガジンVOL.57 AUTUMN/WINTER 2024」より転載

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