腕時計

意志を持って、時計を着替える。【第1回】
町田啓太とパテック フィリップ

2025.09.29

意志を持って、時計を着替える。【第1回】<br>町田啓太とパテック フィリップ

30歳に差し掛かる頃から、時計熱が高まってきた。「仕事を通じて時計に触れる機会も増えましたし、もっと深く時計の世界を知りたい」という町田啓太が、5つの時計に出合った。

ジュネーブ時計の伝統と革新

そもそもスイスの時計産業は、いつ花開いたのだろうか? そのきっかけは隣国のフランスにあった。フランスではユグノーと呼ばれるカルヴァン派プロテスタントが、時計産業に従事していた。カルヴァン派は勤労を奨励していたため、職人になる人が多かったのだ。しかし1685年に信教の自由を保障する「ナントの勅令」が廃止されると、ユグノーたちは迫害を受けるようになり、カルヴァン派の拠点都市であったスイスのジュネーブに移住する。ジュネーブではその前から宝飾産業が盛んだったが、そこにフランスから時計技術が持ち込まれたことで、ケースやダイヤルにエナメル画や金属細工を施した、芸術的な時計が作られるようになった。

ジュネーブではいくつも著名な時計ブランドが創業したが、そのひとつが、1839年に創業した「パテック フィリップ」である。時計愛好家の多くが“世界最高峰”と称するが、その理由はどこにあるのだろうか? 画期的な機構をいくつも開発したり、英国女王ヴィクトリアに愛されたりと、伝説的なエピソードはいくつもあるが、歴史と伝統だけで価値を維持することは難しい。

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「パテック フィリップ」が最高峰であるのは、むしろ革新的なブランドであったからなのだ。

スイスにおける高級時計産業の中心地であったジュネーブでは、“ジュネーブらしい時計”を守るため、1868年に「ジュネーブ・シール(Poinçon de Genève)」という規約をつくり、仕上げや素材などを準拠する時計にのみ、認定マークを刻印することを許した。

ジュネーブ・シールはジュネーブの時計文化を継承する役割を担ったが、それはすなわち伝統に縛られ、革新を阻害するとも言える。しかしパテック フィリップは革新なくして伝統を継承することはできないと考え、2009年新たな自社基準として「パテック フィリップ・シール」を立ち上げた。これは品質や精度だけでなく、美的外観、購入後の修理やオーバーホールといったアフターサービスにも基準が設けられ、世代を超えて受け継がれる品質と価値を提供するというもの。またシリコン製のパーツなど新技術にも対応し、時計を未来へと進化させることも強く意識している。

パテック フィリップは、オーセンティックでありながら、しっかりと未来を見ている。その証明となるのが「カラトラバ6196P」だ。カラトラバは1932年にデビューしたドレスウォッチのコレクションで、その完成されたプロポーションから、ラウンドウォッチの完成形と称される。その最新作はレトロなムードを持つローズゴールドめっきオパーリンのダイヤルを使用しつつ、アントラサイト色のインデックスと針を合わせることでモダンな雰囲気を演出。そして自社製ムーブメントのCal.30-255 PSにはシリコン製ひげゼンマイ「スピロマックス」を採用し、高精度とロングパワーリザーブ化を実現した。

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なぜ、歴史あるパテック フィリップは革新を進めることができるのか? それはラグジュアリーブランドでは珍しく、スターン家による独立資本の家族経営の会社であるから。そのため戦略には一貫性があり、何代も先を見据えた戦略を取ることができるのだ。

伝統も革新も、築き上げるには時間がかかるが、パテック フィリップにはその覚悟がある。それこそが最高峰と呼ばれる理由なのだ。

Keita’s Voice

「パテック フィリップは、何代も継承できる時計をつくっているという印象があります。カラトラバは、その象徴的な存在ですよね。すごく好きなデザインですし、ムーブメントの仕上げもとても奇麗で、見入ってしまいました。教えてもらって気が付きましたが、プラチナ製のケースは、6時位置横にひとつだけダイヤモンドが入っている。そのさりげなさも面白いですね」

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パテック フィリップ「カラトラバ6196P」
手巻き、PTケース、ケース径38㎜。¥7,460,000

問/パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 03-3255-8109

Photograph: Toru Kumazawa
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY(HAKU)
Text: Tetsuo Shinoda

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