旅と暮らし

美しい日本語の教科書!
外国人翻訳者が語る「百人一首」の世界

2018.03.29

美しい日本語の教科書!<br>外国人翻訳者が語る「百人一首」の世界

日本に、そして日本の文化や言葉に魅せられ、そのすばらしさを世界へと発信しているピータ・ジェイ・マクミランさん。なかでも日本とアメリカの翻訳賞を受賞した『百人一首』には、日本の美意識が凝縮されているという。昨年は『英語で読む 百人一首』を出版、英語版のかるたも制作中だ。マクミランさんに日本の感性が凝縮されたような、百人一首の魅力を伝える代表的な和歌を6首ピックアップしてもらった。自然との一体感、隠喩によることば遊び、はかなさへの思い、おおらかさ……。歌からはじまる多様な味わいが見えてくる。

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あしびきの やまどりのをの しだりをの 
ながながしよを ひとりかもねむ
柿本人麻呂

「この歌は、声に出して読むといっそう魅力を感じられます。まず“の”と“を”いう音を繰り返し、韻を踏むことでリズム感が生まれますし、さらにはこの繰り返しによって山鳥の尾の長さを強調する隠喩にもなっています。ここに、百人一首のもつ自然との一体感が内包されているのではないでしょうか。英訳をする際は、この韻を踏むリズム感も意識しました」

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たごのうらに うちいでてみれば しろたへの
ふじのたかねに ゆきはふりつつ
山部赤人

「百人一首に収められている歌人たちが生きた時代は、非常にスパンが長く多様。実に500年ほどの開きがあります。そのなかでもこれは、万葉歌人による作品です。細かいディテールではなく、壮大なスケールで詠まれた例外的な歌ともいえるでしょう。それでいて、万葉の時代の特徴であるおおらかさが如実に表れています。シンプルでストレートな自然讃歌であり、いつの時代も好んで詠まれてきました」

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はなのいろは うつりにけりな いたづらに
わがみよにふる ながめせしまに
小野小町

「“いたづらに”は、“花の色”と“わが身世にふる”、のどちらにもかかっており、絶世の美女といわれた小野小町が、花の色に例えながら自身の美の変化の憂いを歌っています。また、ながめせしまには、長雨と自分の眺めの双方の意味合いになっています。こういう足し算による意味の重複という言葉遊びも、百人一首の醍醐味といえるでしょう」

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きみがため はるののにいでて わかなつむ
わがころもでに ゆきはふりつつ
光孝天皇

「詠んでいると、雪の白と若菜の緑のコントラストといった美しい早春の情景が目に浮かぶような歌です。季節の頃は春の七草のあたりでしょう。七草をいただいく風習は現在にも続いていますが、季節の盛りではなく、走りの頃をめでて歌にするところは、実に日本的だと思います」

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ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
しづこころなく はなのちるらむ
紀友則

「百人一首のなかでも、非常に有名な一首ですが、この“はな”とは、もちろん桜のことですね。ここで桜ははかなさの象徴です。のどかでうららかな春の日に、あわただしく散っていこうとする花を詠む。穏やかさのなかにもはかなさ、切なさを見いだして歌にするというのは、日本人の美意識の大きな特徴であり、この歌もとても日本的だと思います」

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せをはやみ いはにせかるる たきがはの
われてもすゑに あはむとぞおもふ
崇徳院

「川の流れに男女の関係を例えた歌です。岩という障壁を超えてまた一緒になりましょうという、これも自然の読み取り方が非常に秀逸な一首です。また詠み手と自然との近さを感じられるところも、百人一首の大きな特徴をよく表しているという意味でも代表的な歌ですね」

プロフィル
ピーター・ジェイ・マクミラン  アイルランド生まれ。東京大学非常勤講師。教壇のみならず翻訳家、詩人としても活躍。英訳『百人一首』は日米で翻訳賞を受賞。著書に『英語で読む百人一首』など。http://peter-macmillan.com

hotograph:Kentaro Kase
Text:Toshie Tanaka
Location:Hotel Chinzanso Tokyo

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