週末の過ごし方

麗しのクイーン・エリザベス。
[前編]

2024.11.22

麗しのクイーン・エリザベス。<br>[前編]

まるで、ブリジャートン家の二人のように─。
作・鮎川ジュン

「もうすぐ結婚して10年だね」

雨が降った日曜日の午後。一緒に話題のスパイ映画を観ようと、再生ボタンを押してすぐのことだった。おそらく僕がこの映画を観ながら眠ってしまうと見越したのだろう。何か物申したいことがあるに違いない。

10年記念にさ、船旅してみない?」

妻との出逢いは、友人の展示会で「同じ三軒茶屋に住む人だよ」と適当に紹介されたのがきっかけ。引っ越したばかりだった僕に、「飲みに行くならココ」「食料品買うならこっちのスーパー」となんとも頼もしい的確なアドバイスをくれた。

3カ月くらいたった頃だろうか、仕事仲間と飲んだ後、近所で仕事モードをリセットするために教えてもらったバーに行くと、まるでその店のオーナーのように幅を利かせている妻がいた。

「ここはハイボールの作り方が本格的だから、ハイボールを頼みなよ」と言われるがままハイボールを注文し、何の仕事をしているか、なぜ三軒茶屋を選んだのか、自分自身の話を聞かれるがまま話した。彼女は2つ年上で、なんだかすべてに達観しているような雰囲気だからか、弱音も愚痴すらもすらすらとしゃべれてしまう。気づけば、その店の常連になっていた。

三軒茶屋に越した理由は、6年付き合った彼女に振られ、一緒に住んでいたマンションを出なくてはならなかったからだ。振られた……というか、情けないことに「結婚しないのであれば別れたい」と言われてしまった。「結婚」という言葉がまだしっくりこない、世に言う〝適齢期〟をとっくに過ぎていたというのに、この先の人生を決めるという決断ができなかったのだ。

それがどうしてだろう、妻とは出逢って10カ月で結婚してしまった。

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「君みたいな人は、私と結婚すればいいよ」

「そうですね、結婚しましょうか」

あの時のプレッシャーは何処(どこ)へやら、とても自然な流れだった。

「船旅? どうしたの急に。そうゆうの興味あったっけ?」

「私が好きなドラマは?」

「なんかあの、イギリス王室のやつ」

「そう、それだよ」

「えっ? ちょっとわからない、それがどう船旅に関係あるの?」

「クイーン・エリザベス号に乗って、旅をするの」

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いつもそうだ。突拍子もないことを言い始めるよな、この人……と思いながらも話を聞き進むと、思いつきでもなんでもなく、ずっと憧れていたことがわかった。そして、その待望の東京発着クルーズがあるので、どうしても乗ってみたいというのだ。

思えばこの10年、お互いの実家への帰省くらいしか一緒に旅行をしたことがなかった。一人で好きな場所に行き、旅先での土産話をしながら飲むのが、二人で過ごす最高の時間だと思っていた。以前の恋愛同様、また気づかぬ間に、とんでもない過ちを犯しているのではないか?という気持ちになり、途端に自分が恥ずかしく思えてきた。

「いいよ、行こう。クルーズ船で結婚10周年をお祝いしよう」

こうして、未知なる船旅に出ることを決意したのである。

<<後編に続く

クイーン・エリザベス
全長294mの巨大な船に、エンタメ、グルメ、そして人との出会いが詰まっている。日本には2025年3月末に寄港予定。乗船情報はキュナードのWEBサイトにて。唯一無二の旅の醍醐味(だいごみ)を、ぜひ体験していただきたい。cunard.com

鮎川ジュン(あゆかわ・じゅん)
アエラスタイルマガジンwebの人気連載企画『いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは?』の選者・執筆者。バーテンダー、音楽家、DJ、イベントオーガナイザーなど、幅広い顔をもつ。

Illustration: Michiharu Saotome

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