ネクタイ
マエストロが挑む、天然藍染ネクタイのサステイナビリティ
2025.09.29
藍染と言えばジーンズの「色落ち」を思い浮かべるが、ドレススタイルのネクタイに色落ちは許されない。しかし天然藍染めを施したネクタイが、この秋ついに商品化される。堅牢度の高い天然藍染めを実現したのは東京・青梅の村田染工。「色落ちしない藍染」を実現する高い技術力を誇り、海外からも注目を集める藍染工房である。
この藍染ネクタイを仕掛けたのは「ネクタイマエストロ」として知られる、アイネックスの並木孝之氏。SNS総フォロワー数3万人を抱えるドレススタイルインフルエンサーが、藍染の奥深さとサステイナブルな価値に着目し、ネクタイの世界に新しい“色”を生み出す。
天然藍ならではの深い色をまとうネクタイが実現するまで
「自分もつい最近まで、天然藍のネクタイなんて無理だと思っていました」と並木孝之氏は語る。YouTubeやSNSで人気を集める「ネクタイマエストロ」。長年、世界のシルク生地や職人技に触れてきた並木氏ですら、藍染のネクタイは商品化することが難しいと信じていた。
きっかけは、青梅藍の伝統を受け継ぐ村田染工との出合い。並木氏が衝撃を受けたのは、色落ちしない天然藍灰汁(あく)醗酵建ての藍染めだった。「染料ごと川に流しても、すべて自然に還る」と言われる地球に優しい染色技法である。休眠していたネクタイ用のシルクプリント生地をアップサイクルすることもできるサステイナブルな時代にふさわしい取り組みであり、「藍染ネクタイが新しい価値を生む」と確信した瞬間だった。
青梅藍を紡ぐ村田染工の歴史
藍染は飛鳥時代に日本へ伝わったと言われている。徳島藍を原料にした発酵建ての技術は、関東でも江戸期に木綿や麻に適した「青梅縞」としてしゃれ文化を支えてきた。村田染工は1919年創業。当初は化学染料も扱っていたが、現代表である四代目、村田敏行氏の代に地域文化の継承を使命に天然藍の染色に特化している。
敏行氏の叔父にあたる工房長の徳行氏は、徳島での修業経験もある藍染職人だ。藍葉を発酵させて「蒅(すくも)」を作り、さらに菌やアルカリを生かした建てを行う高度なプロセスを職人の“勘”でけん引する。近年は日本の藍染技法を継承することに魅力を感じた若い職人を多く抱え、著名な海外のデザイナーも視察に訪れるほど国内外から高い評価を得ている。
ネクタイ生地の新たな可能性を目指して
並木氏は村田染工と共に、ネクタイ生地への藍染めを検証した。使用したのはイタリアや英国製のネクタイ生地だ。麻や木綿といった植物素材は藍染に適しているが、シルクやウールのネクタイ生地は、どのように染まるか「やってみなければわからない」と工房長は言う。
しかし杞憂は確信に変わる。試作品からして天然藍特有の奥深い色合いをたたえ、しかも色落ちしないという結果が得られたのだ。シャツに色が映らず胸元でいつまでも美しいインディゴブルー。元布の色合い・柄・素材によって異なる偶然性すら魅力に変換して、唯一無二の天然藍染ネクタイが実現した。
この秋、伊勢丹メンズ館にて限定ローンチ
こうして誕生した天然藍染ネクタイが、この秋いよいよお目見えする。ローンチの舞台は伊勢丹メンズ館。10月8日からサステイナブル企画として5階フロアにて展開され、11日には並木氏自ら店頭に立つ。
天然藍染による深いブルーは、スーツスタイルを格上げする存在感を放つだけでなく、環境負荷を減らすアップサイクルの象徴でもある。来春に向けた新作もすでに進行しており、藍染ネクタイは新しいカテゴリーとして定着していくだろう。伝統と革新、サステイナブルとラグジュアリーを両立するこの挑戦は、世界に誇る日本のクラフトマンシップを改めて示唆している。
天然藍のネクタイが生まれる工房の様子を動画でチェック!
取材協力/アイネックス 03-5728-1190
Photograph&Videograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Yasuyuki Ikeda