腕時計
意志を持って、時計を着替える。【第2回】
町田啓太とルイ・ヴィトン
2025.09.30
30歳に差し掛かる頃から、時計熱が高まってきた。「仕事を通じて時計に触れる機会も増えましたし、もっと深く時計の世界を知りたい」という町田啓太が、5つの時計に出合った。
ラグジュアリーブランドの時計戦略。
1970年代にどん底に落ちたスイスの高級時計産業だが、1980年代中頃に起きたアンティークウォッチブームがきっかけとなって、機械式時計に対する関心が再燃する。さらに1990年代になると巨大資本によるグループ再編が進み、高級時計市場はどんどん拡大していく。そして市場に対応するように、ラグジュアリーメゾンたちも続々と高級時計市場に参入していく。2000年にシャネルが本格メンズウォッチ「J12」を発表し、ブルガリが高級時計工房やダイヤル工房を傘下に収めてブルガリグループを結成。エルメスは2003年にムーブメント製造会社のヴォーシェ マニュファクチュール フルリエの資本の一部を所有し、専用ムーブメントの開発している。
ラグジュアリーメゾンは、時計専業ブランドとは異なる美学から生まれた創造的な時計が得意だ。しかもムーブメント会社などを傘下に収めることで品質面を向上させ、高級時計市場の新たな目玉となっていく。
なかでも注目なのが、ルイ・ヴィトンだ。同社を軸とする世界最大のラグジュアリーコングロマリットLVMHグループには、ゼニスやタグ・ホイヤーといった名門時計ブランドも属するが、それに飽き足らず、2002年に「アトリエ オルロジュ ルイ・ヴィトン」を設立し、本格的に高級時計市場に参入する。当初はゼニス製のムーブメントなどを使用していたが、2011年に複雑時計工房を買収し「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」を立ち上げる。さらに翌年には文字盤工房のレマン・カドランも傘下に収め、時計製造のレベルをさらに上げていく。
「エスカル オトマティック ローズゴールド グレー」は、ルイ・ヴィトンの高級時計に対する熱意が込もった時計だ。そもそも「エスカル」コレクションは2014年にデビューしたもの。同社のトランクにインスピレーションを得たデザインや仕上げを取り入れた、ルイ・ヴィトンらしい時計だった。しかし2024年にリニューアルを果たし、センターセコンドのシンプルなモデルへと生まれ変わった。
このモデルの魅力は、細部に宿っている。ラグやダイヤルのインデックスに、トランクの金具を模したデザインを取り入れ、ダイヤルはモノグラム・キャンバス風の凹凸のある質感に仕上げている。
さらにムーブメントも極上だ。搭載するCal.LFT023は、マイクロローターを採用し、厚みを4.2㎜に抑えた。直線的なブリッジはエッジを高くし、その内側を梨地仕上げにしている。そしてこのモダンな雰囲気に合わせて、人工ルビーの穴石は透明のタイプを使用する。ムーブメントの美観や表現にまでこだわるところに、ラグジュアリーメゾンならではの美学を感じる。
時計愛好家の多くは、“餅は餅屋”と考える。しかしルイ・ヴィトンの時計を見れば、先入観を捨て、考え方をアップデートするべきだと理解できるだろう。
Keita’s Voice
「僕自身は専業ブランドが好きなので、ラグジュアリーメゾンの時計はあまり意識してきませんでしたが、説明を聞いて時計を見ると、イメージが変わりますよね。デザインやムーブメントの仕上げは、華やかで美しく、まるでテーマパークのような面白さがあります。ルイ・ヴィトンは、これから50年、100年と時計の歴史を重ねていくのでしょう。その始まりに立ち会えるのは、特別なことですよね」
自動巻き、18KRGケース、ケース径39㎜。¥4,411,000
問/ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-00-1854
Photograph: Toru Kumazawa
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Hair & Make-up: KOHEY(HAKU)
Text: Tetsuo Shinoda