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富士の麓で、おしゃれなひと時を……
ザ・ディアグランドで会いましょう。
2018.01.23
筆者がまだ富士山の見える静岡の田舎町に暮らすお洒落に多感なマセた10代だったころ。原宿の神宮前のビームスや銀座にできたばかりのシップスがある東京は、憧れそのものであった。春休みや夏休みになると東京の大学に行っていた3つ年上の兄貴をたよって、汽車を乗り継いでそういった憧れのショップまで洋服を買いに行ったものである(もっとも、数少ないおこずかいで買えたのはせいぜいインポートのシャツ1枚ぐらいであったが)。
そんな筆者も東京で暮らすようになって、はやもう三十数年。最近よく業界の知り合いの人たちから耳にするのが「いまは東京よりも地方のセレクトショップのほうが断然面白い」という話だ。似たような顔つきの大手のセレクトショップばかりが増えてしまったいまの時代、わざわざ買い物に行きたくなるほど魅力的なショップは、もはや東京ではなく地方にあるとは。いやはやなんとも皮肉な話ではないか。
東京から中央高速道路で2時間ちょっと。山梨県の富士吉田市にある「ザ・ディアグランド(THE DEARGROUND)」も、そんなわざわざ東京からクルマに乗ってまで訪ねてみたい、富士山の麓にある魅力的なコンセプトストアだ。もとは取り壊す予定だったという古い3階建ての白いビルの2階と3階をまるまるリノベーションした広々と空間を使っている店内は、2階がカフェと、ヨーロッパで買い集めてきたアンティークウォッチやアクセサリーを扱うアンティークジュエリーショップの「CAFE CAFE MARKET」、3階がオリジナルブランドの「オールドマンズテーラー」や「R&D.M.Co-」を中心としたセレクトショップになっている。
なかでも魅力的なのが、3階でフルコレクションがそろうオリジナルブランドのオールドマンズテーラーだ。“昔のヨーロッパのお祖父さんのクローゼットにありそうな服”をコンセプトに、ヨーロッパのトラディショナルをベースに時代感をツイストしたオールドマンズテーラーの服は、じわじわとその名が口コミで服好きたちの間で広がり、関東地区では神宮前のグラフペーパーや神楽坂のラカグといった通なショップでも取り扱いがある、知る人と知る人気ブランドである。
ご夫婦でショップのオーナーとブランドデザイナーを務める、しむら祐次さんとしむらとくさんは共に地元、富士吉田市のご出身。昔から富士吉田市は富士山の湧き水を利用したシルクを主とする織物産業が盛んだった土地で、妻のとくさんの実家もシルクネクタイを織っていた。東京でアパレルメーカーに勤めた後、稼業を継いでシルクネクタイを生産していたのだが、ネクタイ市場もだんだんと縮小してしまい、ここ富士吉田で何かできないかと模索した結果、たどり着いたのがリネンクロスである。使用していた織機は量産用の高速織機ではなく昔ながらのシャトル織機で、空気を含みながらふんわりと織れて、耳付き生地に仕上げることができ、リネンクロスを織るのにも最適であった。もともとヨーロッパのアンティークリネンに興味のあった妻のとくさんが、これを使って糸から作って仕立てたリネンのクロスに合うお店や服をと始めたのが、オールドマンズテーラーなのだ。
ちょうどこれからの季節(2月~3月ごろ)なら、リネンクロスのカーテン越しに窓から富士山の雪景色を眺めながら、3階のショップで買い物をして2階のカフェで紅茶を楽しめる。まるで英国の田舎町までちょっとしたドライブにでも来たような気分である。こんなサバーバンライフ(郊外生活)な楽しみ方、まず都会のセレクトショップではできない。それにしても、富士山の麓にこんなおしゃれなショップがあるなんて。筆者がいたころの静岡の田舎町にはなかったなぁ。
オールドマンズテーラーのおすすめアイテムはこちらからご覧になれます。
ヨーロッパの古い一軒家のような階段を上がった3階のショップの入り口にディスプレーされている古いシャトル織機。
2階のカフェ。窓から富士山を望める最高のロケーション。店の奥にはヨーロッパのアンティークジュエリーを扱うショップも併設している。
カフェではサンフランシスコのバークレイ発のオーガニックティー「ファーリーブスティー」などが楽しめる。スコーン¥600、TEA¥500~
価格はすべて税抜き価格です。
プロフィル
いであつし(いで・あつし)
数々の雑誌や広告で活躍するコラムニスト。綿谷画伯とのコンビによる共著『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)などで、業界関係者にファンが多い。
Photograph:Mitsugu Inada
Text:Atsushi Ide