週末の過ごし方
金沢に出張、からの「ついで旅」Vol.3
谷口建築を巡りカウンター飲みへ。もてなしに宿る利他の心
2025.04.03

大人のファッション&カルチャー誌に向けて、金沢の魅力を伝えるエディターによる充実の旅プラン。最終回のVol.3は建築からちょい飲みまで、金沢のもてなしを余すことなく!
桜と共に、金沢を愛する人々のもてなしを知る

主要な名所を歩いて回れるコンパクトな街、金沢。特に今の時季は桜があふれ、お花見を兼ねて街歩きを満喫できる格好のタイミングでもある。金沢城公園では特徴的ななまこ壁と桜の共演、浅野川沿いの主計町(かずえまち)も優美な風情を感じられるスポット。美しい桜を古都の趣と共にめでることができるのは、現在まで貴重な文化が継承されているからこそ。訪れる旅行者を魅了する裏にある、金沢に流れる利他の心とは?
Day2 2:00PM
谷口吉郎と吉生 偉大なる父子の建築を巡る
昼鮨を満喫した後は、金沢に数多く残されている谷口吉郎・吉生父子の建築探訪へ。NYのMoMAも手がけた世界的建築家の谷口吉生氏は、残念ながら昨年12月に逝去。そのニュースを耳にし、あらためて谷口建築の美意識に触れてみたいと思っていた。父、谷口吉郎氏は九谷焼の窯元の家に生まれた金沢名誉市民第1号。吉生氏も戦時中には金沢に疎開したという。共に美しいこの街を愛し、多くの建築作品を残した。

©D.T.Suzuki Museum
まず片町から徒歩圏内の谷口吉生氏の「鈴木大拙館」を訪れる。鈴木大拙氏もまた金沢出身で、禅の思想を世界に広めた仏教哲学者。谷口吉生氏は美術館建築が多く、展示作品を際立たせる引き算の美学が特徴。館内に入り「水鏡の庭」にたたずむとしばし現実を忘れ、その静寂に心洗われる。形のない無の心を表現したこの建築では、訪れる人の視点を大切にした谷口吉生氏の美学をダイレクトに感じられる。
鈴木大拙館
石川県金沢市本多町3-4-20
076-221-8011
開館時間/9:30~17:00(入場は~16:30)
休/月曜
https://www.kanazawa-museum.jp/daisetz/index.html

Photo:Toshiharu Kitajima
続いて向かったのは、犀川を渡った寺町にある「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」。ここは谷口吉郎氏の住まい跡に谷口吉生氏の設計で建てられた建築と都市のミュージアム。実は金沢は建築も見どころが多く、その文化を発信する拠点となっている。
歴史を残す街並みになじむ、モダンで端正なファサード。そして2階には谷口吉郎氏の作品、迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室を忠実に再現。常に意識してきた父へのリスペクトが伝わる空間だ。

Photo:Toshiharu Kitajima
谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館
石川県金沢市寺町5-1-18
076-247-3031
開館時間/9:30~17:00(入場は~16:30)
休/月曜
https://kanazawa-museum.jp/architecture/index.html
近隣のにし茶屋街を通りかかると何やら人だかり。なんとそこには「金箔タクシー」が! 車のボディをよく見ると箔足と呼ばれる縁の部分があえて残されており、どうやら本物の金箔が貼られているよう。聞けば1200枚ほどの金箔を用い、厳しい冬にも耐えられるよう仕上げたものだという。こういう細部にも美意識を込めるところが金沢たるゆえん。

そして再び中心地に戻り、谷口吉郎氏が手がけた1952年竣工の「金沢西町教育研修館」に。縁起のいい折り鶴の照明と亀甲型の石張りの装飾を配した、レトロモダンな空間は必見。
「金沢西町教育研修館」エントランスホールの和風モダニズムな装飾。登録有形文化財指定。 今後、同館は金沢で長く教鞭をとった柳宗理のデザインミュージアムとなる予定(現在改修休館中。開館時期未定)。
金沢西町教育研修館
金沢市西町3-16
076-220-2031(金沢市役所企画調整課)
そこから唯一の父子の協働作品である「金沢市立玉川図書館」に向かう。2つの建物をつなぐ中庭があり、来館者が公園で本を読んでいるような感覚になるようつくられている。

金沢市立玉川図書館
金沢市玉川町2-20
076-221-1960
開館時間/10:00~19:00(土・日・祝日は~17:00)
休/月曜
https://www.lib.kanazawa.ishikawa.jp
Day2 6:00PM
予約を取らないイタリアン「ニューロン」でカウンター飲み

駆け足の建築探訪でそろそろ空腹が……。旅先ではガチガチに予定を決めてしまうと、予定をこなす形になり、それはそれで味けない。昨今人気店は予約なしでは入れない場合も多いが、本来はその日、その時で食べたいものを選びたいのが本音。金沢にはそんなジレンマに寄り添ってくれる店もある。
炭火焼きの肉料理が人気のイタリアン「ジブンチ」の系列店「ニューロン」は、あえて予約を取らないシステム。充実のイタリアワインと共に、食材に恵まれている金沢ならではの小皿料理が楽しめる。
フレッシュですっきりした「テッレ デイ ブース プロセッコ ブリュット」(¥700)。イタリア・ヴェネト州のグレラ品種。 グラスワイン(¥700~)も豊富だが、ボトルなら2階のセラーで選ぶことも可能。味わいの特徴を記載したラベルも親切。
一人ふらりと訪れてカウンターへ。スタートは昨晩某老舗料亭の大将が飲み干していたというプロセッコに、野菜の前菜盛り合わせを。多彩な野菜をそれぞれマリネしたひと皿にワインが進む。そしてピエモンテのネッビオーロ種のロゼと共に、肉焼き名人の山本シェフならではのひと品、能登豚バラ肉の香草ロースト、ポルケッタをオーダー。
野菜の前菜盛り合わせ(¥1,000)。季節により食材は変わる。 能登牛、能登豚も押さえておきたい食材。ポルケッタ(¥1,600)。
隣席となった見知らぬ人とのたわいない会話も弾む。そんな一期一会もカウンター文化が根付く金沢ならではの良き思い出だ。客の立場を考えてのスタイルは評判で、店は温かな活気にあふれていた。
ニューロン
石川県金沢市長町2-1-9
090-1493-4994
営業時間/17:30~23:30(月~金)17:00~23:30(土、日)
休/不定休 予約不可
Instagram @neuron_kanazawa
Day2 8:30PM
「SAKE食堂 by 農口尚彦研究所」 誘惑のおつまみセット
ホテルに預けていた荷物をピックし、金沢駅に到着。9:03PM発の北陸新幹線の最終まで、駅構内「あんと西」の立ち飲み日本酒処をチェック。ここでは酒造りの神様と称される御年92歳の現役杜氏、農口尚彦氏による農口尚彦研究所の日本酒と、冷水希三子氏が一部監修のおつまみを味わえる。一杯……と思ったものの、まもなく新幹線の発車時刻。

ふと店内を見渡すと「新幹線おつまみ3点セット」と100mlのミニボトルの日本酒という、またとないテイクアウトグルメが! テレビドラマ『居酒屋新幹線』よろしく、そそくさと買い込み無事乗車。

SAKE食堂 by 農口尚彦研究所
石川県金沢市広岡1-7-1 あんと西1階
076-204-8383
営業時間/9:00~23:00(L.O.22:30)
休/不定休
https://noguchi-naohiko.co.jp/shop_dining
日本酒にぴったりなさっぱり系のおつまみで余韻を楽しみながら、たった1.5日とは思えない充実の旅を振り返り。老舗の温かみ、新しきをおもしろがる気質。そしてつくり手の主張ではなく、訪れる人の立場に立って考える余裕。金沢はまた来たいと思わせる、ほどよい距離感と豊かさに満ちていた。
取材協力:金沢市観光協会
https://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp