週末の過ごし方
酒ではなくコーヒーと。つまみのようなオープントースト
[喫茶店ランチを愛す]
2018.04.24
時代の荒波にもまれ、ニッポンのビジネスマンは今日も行く。だからこそ、ひと息つける安らぎの場所は確保しておきたい。そこで、喫茶店ランチである。心と体をほぐし、英気まで養える、そんな都会のオアシスを紹介していく。
オイスター、サーディン、サラミ。これだけそろえばウィスキー片手にしみじみ飲みはじめたくもなるのだが、ここは喫茶店。カウンターにはスピリッツではなくサイフォンが並び、コポコポと音を立てている。アルコールランプのやわらかな火でゆっくり蒸らすように入れたコーヒー。つまみのようなオープントーストをアテに、グッと一杯やるのがここのスタイルだ。「ミックスコーヒー」と呼ばれるブレンドだけでもバリエーション豊か。酸味を欲するなら「トップミックス」。苦味を所望するなら「自家焙煎珈琲“風”」。リッチにいきたいなら「新作“薫味 —komi—”」など。
店長の村田克明さんいわく、「これからの季節なら、『トップアイスコーヒー』もどうぞ。最初からガムシロップが入っていて甘い。乙でしょう? だから甘みのない純生のホイップクリームを載せてお出しします。最初のひと口はそのままゴクンと。少しずつホイップを溶かしてね、最後はコーヒーキャンディーのような味わいになるのが正解。これはホットの『トップミックス』も同様です。砂糖とミルクを足しながら飲むことで、一杯のコーヒーでもここまで楽しめること、ご存じでしたか?」
オープンは昭和46年。「1号店は渋谷駅前にあって27年から。いまに比べれば渋谷はまだ野原だった」と村田さん。24年創業の輸入食品を扱う会社「渋谷食品」が母体で、オイスターやサーディンは、そのころ扱っていた缶詰類から生まれた昔からのメニューなのだ。
渋谷で昭和を感じるコーヒーを楽しみたくなったら道玄坂を上ろう。若者をかき分け、外国人観光客をかき分けたその奥に、オアシスはある。
Photograph:Keiko Ichihara
プロフィル
本庄真穂(ほんじょう・まほ)
神奈川県生まれ。編集プロダクションに勤務のち独立、フリーランスエディター・ライターとなる。女性誌、男性誌、機内誌ほかにて、ファッション、フード、アート、人物インタビュー、お悩み相談ほか、ジャンル問わず記事を執筆。記憶に残る喫茶店は、山口県・萩にあるとん平焼きを出す店名のない喫茶店。福岡県・六本松の『珈琲美美』、神奈川県・北鎌倉の『喫茶 吉野』に通う。