紳士の雑学
クラフトビールの定義とは?
クラフトビールの楽しみ方 第1回
2018.04.27
ここ数年で、クラフトビールのブームがすっかり根付き、日本各地でクラフトビールが造られ、いまやそれはビールのカテゴリーのひとつとして認知されている。とはいえ、さて、クラフトビールとは何か? 何をもってクラフトビールなのか?という問いに明確に答えられる人は少ない。
クラフトという言葉は多くの場合、「工芸」という意味で用いられている。クラフトマンシップと言えば職人魂。だから多くの人にとって、クラフトビールは、量産のビールに対して、少人数で手造りで醸造しているビールというイメージがあるだろう。しかし、それが定義ではないのだ、と日本ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキさんは教えてくれた。
「そもそもそれは、1965年くらいにアメリカの西海岸で起こったムーブメントに端を発するものです。伝統的で良心的なブリュワリーが、バトワイザーやミラー、クワーズといった大手のビールメーカーの安売り合戦に押されて廃業を余儀なくされた時期でした。そんななかで、サンフランシスコの『アンカー』社は、伝統的なビール“スチームビール”を造り続けていましたが、廃業しそうになりました。それを当時、カリフォルニア大学バークレー校の学生だったフィリッツ・メイタッグ氏が、アンカー社の株を数十%買い取り、古くからのビールのスタイルを守ったのです。その後、ニューヨークでも伝統的なビアスタイルを守ろうとするブルックリン醸造所などが開業し、クラフトビールはさらに広がっていくこととなります。こうした古きよきビールを見直し、さらに進化したビールを造ること、この流れがクラフトビールのムーブメントなのです」
つまり、規模の大小ではなく、古くからの(ヨーロッパからの入植者が造ってきた伝統的なビールやゴールドラッシュ時代に生まれた)スタイルを踏襲したビール造りの手法を大切にしたうえに、アメリカ的な発想を加味したビールであるかどうかこそが、クラフトビールの条件となるのだという。なにしろ、アメリカでマイクロブリュワリーと言われるクラフトビールの醸造所でも、日本の大手メーカーの規模はあるというのだから、醸造所の規模とは関係ないことがわかるだろう。
アメリカで生まれたクラフトビールの、伝統的な手法を勉強し、見直し、ビールを造るというその動きはまた、ビールのクオリティーそのものを進化させることとなり、世界中に影響を与えていった。だから、日本のクラフトビールの多くは、アメリカのクラフトビール(その元を正せば、イギリスやベルギー、ドイツやチェコなどにオリジンがあったとしても)の影響を受けて生まれたものなのである。
Photograph : Reiko Masutani
Text : Hiroko Komatsu