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美しい時計

グランドセイコーが刻む「時のモノ語り」
第六回

2018.06.21

時間の扉
作家 矢島裕紀彦

先生の専門は文化人類学でした。といっても学部が違ったし、僕にとっては、ワンダーフォーゲル部の顧問としての、山と自然を愛するユニークな先生という印象が強いんです。

ビジネススーツの下に山男の逞(たくま)しさを包み込んで、若い金融マンは語る。都心のホテルの高層階にあるカフェ。彼方に沈む夕日に慈しむような目を向けてから、言葉を続ける。

先生は茶目っ気のある人で、初めての夏合宿のキャンプ場ではこんな話を聞かせてくれました。その昔、シアトルの新聞に、「極めて安い費用で、しかも少しも疲労せずに旅行する方法を、たったの1ドルで教えます」という広告が掲載された。何百人かのあわて者がお金を払ったが、届いた手紙にはこんなことが書かれていた。

「あなたは、自分のベッドの上に横になって、私たちの住んでいる地球が回転しているということを思い出してください。シアトルの緯度、北緯四十七度の上では、あなたは一日のうちに約二万五千キロを旅しています」

この広告を出した悪戯者(いたずらもの)はまもなく告訴され、裁判で罰金刑が言い渡された。その際、彼はこう言ったそうだ。「それでも地球は回っている」

ガリレオもびっくりの台詞ですよね。でも、先生はこの話をしながら、「君たちも今、地球にのって旅をしているんだよ」とどこか嬉しそうでした。金融マンは目尻を下げた。

もちろん先生は、部員のためにもう少し実践的な講義もしてくれました。濁り水を濾過(ろか)する方法や、火種の保存法、ほどけない紐の結び方。さらには、蜂に刺されそうになったら立ち木になりきれとか。野外生活におけるサバイバル術とでもいうんでしょうかね。

先生は僕が三年生のとき大学を辞職しました。カナダの研究機関に籍を移し、よりフィールドワークに軸足をおいた研究を進めたいと言っておられました。送別会の日、腕には再出発を期して手に入れたという腕時計をしていました。

宴の半ば、先生が僕たち学生に問いかけました。かんかん照りの荒野で道を見失った。正しく東を目指して街へ抜けたいが、地図もコンパスもない。さて、どうするか? 皆が首をかしげていると、そんなときはこの正確な時計が役に立つ、と先生は腕時計を指さしました。まず君たちは、太陽に向かって棒か何かを立てて真っ直ぐな影をつくる。その影に、この時計の短針をぴったり添わせるんだ。そうすると、短針はまさに太陽の方角を向いたことになる。その短針とダイヤルの十二時の中間点、それが南になる。そして、その九十度左、時計の針でいえば三時間巻き戻した方角が東というわけさ。そもそも時計は、大航海時代に大海原をゆく自分の船の位置情報を把握するため、飛躍的にその精度が高められたという経緯がある。イギリスの大工の息子だったジョン・ハリソンがその功労者だ。

先生のそんな話を、僕たち学生は興味津々、目を輝かせて聞いていました。最後は皆で肩を組んで、部の愛唱歌『ふるさと』の熱唱です。先生の腕時計は、人柄そのまま、すぐれた機能性の中に知性とタフネスを包み込んでいるような魅力が感じられた。いつか自分も、決断して一歩踏み出すその時がきたら、あんな時計がほしいと、文字盤上のGSのロゴを胸の奥に焼き付けたもんです。

実は僕も今、先生と同じように環境を変えて再出発しようとしています。新しい職場はIT系。ネクタイも要らなければ、自分のデスクも決められていない。自由な空気です。多少の不安もありますが、でもそれ以上に大きな期待に胸をふくらませています。明日、念願の時計を買いにいきますよ。新たな「時間の扉」を開いていきたいと思っています。

若者の目は、惑いなく、これから自分の進むべき方角を見つめていた。いつのまにか日が落ちて、都会の空に一番星がまたたく。
地球は今日も回っている。

※この作品には実在の人物名が登場しますが、この物語はフィクションです。
※北半球でのみ使用可能ですが、緯度の低い地域(北回帰線より南)では季節に
 より利用できない場合があります。太陽の位置が確認できることが必要です。
※あくまでも簡易的な計測方法であり、正確な方位を知るためのものではありません。

写真・図版

グランドセイコー
スポーツコレクション
キャリバー9F 25周年記念限定モデル SBGV247

キャリバー9F82、日常生活用強化防水(20気圧防水)、強化帯磁(16,000A/m)! 、年差±10秒、ケースはステンレススチール、ストラップはコーデュラナイロン、中留:ワンプッシュ三つ折れ方式、直径40.0㎜、¥330,000+税、数量限定1000本。

写真・図版

グランドセイコー
スポーツコレクション SBGV243

キャリバー9F82、日常生活用強化防水(20気圧防水)、強化帯磁(16,000A/m)!、年差±10秒、ケースはステンレススチール、ストラップはコーデュラナイロン、中留:ワンプッシュ三つ折れ方式、直径40.0㎜、¥300,000+税、7月発売予定。

www.grand-seiko.com

問/グランドセイコー 0120-302-617

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Text:Yukihiko Yajima
Photograph:Tetsuya Niikura(SIGNO)
Illustration:Hiroko Takashino

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