紳士の雑学

宮崎、知られざる食材王国
[センスの因数分解]

2018.08.20

写真・図版 田中敏惠

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「それ全然違いますよ、宮崎は食材の宝庫ですから」。
5月の連休明け、居酒屋でのこんなひと言が、宮崎の計り知れない魅力を知る入り口となりました。ちょうどその少し前、ザ・キャピトルホテル東急が食材フェアとして宮崎をフィーチャーする予定だと、PR担当の方から聞いたところでした。互いに宮崎の名物というと地鶏とマンゴーぐらいしか思い浮かばず、食材部も悩んでいると聞き、それではコース料理を組み立てるのも大変ですね、というような話をしていたのです。そんな経緯を伝えると、冒頭のコメントが返ってきたというわけです。

会話の相手は宮崎生まれ、宮崎育ちのビジネスマン。果物や鶏肉だけでなく、野菜だって牛肉だって魚だって、それはそれは素晴らしいと熱弁します。そのプレゼンテーションが実に魅力的で、すぐに先述のPR担当に会ってもらおうとセッティングをしました。で、引き合わせたのが6月。7月には飛行機に乗って2泊3日のグルメツアーに出かけていました。メンバーはナビゲーターとして先の宮崎人、ホテルPR担当、私の3人。完全プライベート、です。

知識ほぼなし、完全おまかせフルアテンダントで食べに食べた3日間。先に感想を言うと、宮崎はまさに食材の宝庫という言葉がぴったりの場所でした。恐ろしいほどに。

初対面の印象が大切なのは恋愛だけにあらず、旅もしかりです。宮崎のグルメツアーでいちばん大きなインパクトがあったのは、上陸後最初にいただいた食材でした。それはピーマン。ピーマン!? と侮るなかれ。焼いて種もまるごとパクっといくそれは、甘くて非常にジューシー。青々とした野菜としての鮮度は感じるが苦味なしでびっくり。今まで自分が食べていたピーマンは何だったのか、と思うほどの旨さなのです。

ナビゲーターから「まだ10分しか経っていないし、まだピーマンしか食べていないのに評価するのは早すぎる」と言われました。確かにそうです。言うとおりです。しかしピーマンひと口で、宮崎は土地の力を十分に伝えていたのでした。

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宮崎食材の衝撃はこのピーマンから。運搬などの経費がかさむため、東京にはなかなか流通しないという。

その後もツヤツヤの野菜やお肉をたっぷりいただき、シメの卵ごはん(タレを付けた霜降り肉と一緒に)まで堪能し、ビオワインのバーへ寄りグラスを傾けたあとさらに移動。韓国風味でニラがたっぷりの辛麺を食べました。この時点で時計は確か11時を回っていたと思います。さすがにもう終わりだろうと思っていたら、「甘いものは別腹ですよね」と案内されたのは、フルーツパーラー! しかも店内はほぼ満員!! ここでも完熟果物をしっかり味わい、ホテルへと帰っていったのでした。

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    食材の味が良いので調理法は至ってシンプル。宮崎地鶏はもも焼きが有名だが、鮮度抜群の刺身もすばらしい。
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    数多くの自然派ワインがラインナップされた「Bioバル」は、東京からの移住者である藤田伊織さんがオーナー。宮崎の高感度ピープルたちが集うサロンのような場所。

翌日は昨夜お世話になったビオワインバーのオーナーも加わり、彼女がおすすめする綾町のレストランへ。綾町は宮崎市街から車で30分少々の、町をあげて自然派農法を推進している自治体。昨夜食べた感動のピーマンも綾町の有機野菜とのことでした。たどり着いたこの町のレストランは目の前に田園風景が広がる一軒家で、地場の野菜や自家製のベーコンなどを使った手料理が美しい器とともにセンスよくサーブされます。その後コンクールで世界一に輝いたパティシエのスイーツ、地鶏、マンゴーに幻の伝統野菜や宮崎牛、フュージョン麺など移動時間以外はほとんど食べているか食べ物や飲み物に関わることをしていた旅でした。

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    綾町のみずみずしい野菜をたっぷりいただけるレストラン「AYAPORT」。個人的再来を誓っています。
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宮崎といえば古事記や日本書紀の舞台となる場所を数多くもつ、いわば神話のふるさと。しかもそれ以前、縄文の時代から多くの営みがあったことが遺跡発掘からわかっています。子孫繁栄などの願いを込めた土偶を作る必要がなかったほど太古の土地の恵みが豊かだったゆえ、宮崎からは出土していないとか。古来から穏やかな気候と豊かな土地に恵まれた宮崎。そんな個性は今の宮崎食材の魅力とも符号します。どれもが奇をてらったりしない、する必要のない、プリミティブな魅力を持っているのです。

現代社会では、流通や文化の発信力などで街の実力を測りがちです。九州のなかで、最も高速道路の開通が遅く人口密度の少ない宮崎県は、そういう意味では全国的にみても地味な存在といっていいでしょう。しかし土地のもつポテンシャルという意味では、数千年も昔から変わらぬ宝をたくさん擁していたわけです。そんなプリミティブな魅力こそ、現代において貴重なのは言わずもがな。昨今は感度の良い人々に注目されはじめ、移住者が東京をはじめその他の都市から集まってきていると言います。今回訪れたビオワインバーや、一軒家レストランのオーナーも東京からこの地へ移住してきた人たちでした(食材に代表されるような、自然から発生される産物のレベルの高さを熱く語っている姿が印象的でした)。

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鉢で栽培されたNSファームのジューシーなマンゴー。無農薬しかも川の水を引いて与えるなど手塩にかけて育てられている。

食べ物とはその土地の恵みであり、産物と風土は似ています。そして宮崎の食材は、素材の力が強く細かい仕事をしなくても十分おいしい、十分満足。そんな素朴な魅力の価値は、今後さらに見直されてくると思います。2020年に向けて開発が進んでいます。しかしポスト五輪にスポットライトが当たるのは、豊かな自然の魅力にあふれた宮崎のような場所ではないでしょうか。知られざる土地の計り知れない力を感じた宮崎の旅。PRがうまくないなぁという思いと、このまま知る人ぞ知る場所であってほしいという思いがないまぜになっています。けれどもう一度言います。ピーマン、すごいです。そして気づいている人は通いはじめています、宮崎。

プロフィル
田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/ ブログ:https://ameblo.jp/ttanakatoshie

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