紳士の雑学
新生ボルサリーノはどこへ向かう?
2018.08.20

自らの名前がアイテムの代名詞となる幸福なブランドが存在する。イタリアの帽子ブランド、ボルサリーノもそのひとつ。19世紀中頃のアレッサンドリアで創業し、多くの洒落者(しゃれもの)に愛用された。1970年にはアラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンド主演のギャング映画のタイトルに使われるという栄誉に浴している。
そんな老舗から軋(きし)みが聞こえはじめたのは数年前。当時の社長の背任により、あわや消滅の危機に瀕した。それを救ったのが投資会社ヒエレス エクイタ社CEOのフィリップ・カンペリオ氏だった。
「ボルサリーノは“スリーピングビューティー”でした」とカンペリオ氏は、大きなポテンシャルをもつ老舗ブランドを童話のヒロインにたとえる。「帽子をつくる技術はもちろん、経営的にも大きな問題はなかったのです」。自社の傘下に置いてCEOを兼任、前社長の不祥事で落ちた信頼を回復させつつ、リブランディングに舵を切った。もちろん、ただ伝統を堅持するつもりはない。
「従来のクラシックな男性用モデルのほか、今後はレディースやミレニアム世代にも積極的にアプローチしていこうと考えています。以前の売り上げではレディースは20%程度でしたが、現在は32%まで伸びています。今後は50%が目標ですね」


それを象徴するかのように、デザイン面でもリニューアルが図られている。従来のフォルムを生かしつつ、ビビッドなカラーリングやハンドペイントを施したり、リボンにレザーを使ったりと、よりコンテンポラリーなアレンジが目を引く。今後は外部のデザイナーと組んだカプセルコレクションも定期的に行う予定だという。ただし、その根幹は揺るがない。
「ひとつひとつの帽子に息づく妥協を許さないモノづくりの精神、これを忘れることはありません。これからもイタリア国内でつくり続けます」
現在の帽子に、外出時の身だしなみであったいにしえの存在感はない。だが、それゆえにファッションアイテムとしての将来性を感じるようだ。

「これからの帽子は自分のスタイルを表現するものになるでしょう」と氏は断言する。その言葉には、経営者というだけでなく、帽子を愛するひとりの洒落者としての愛情と自信があふれる。
新生ボルサリーノの今後に期待したい。
問/ボルサリーノ ジャパン 03-5413-3954
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Mitsuhide Sako(KATANA)