お酒
オーストリアのナチュラルワインを代表する赤ワイン
ゼップ・ムスター ツヴァイゲルト2013
[今週の家飲みワイン]
2018.10.31
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オーストリアワインの魅力が多様性にあるとは、初回に梁さんが説明したとおりだ。伝統的な造りを固持する造り手がいる一方、ナチュラルワインの先進的な産地でもある。4本目となるゼップ・ムスター ツヴァイゲルトはまさにそれを象徴する1本だ。ツヴァイゲルトとは、オーストリア原産の黒ぶどうで、最も多く栽培されている品種。際立たった果実感とほのかなスパイスの香が特徴だ。
「オーストリアでこうしたナチュラルワインが造られるようになったのは、実は、そう古いことではないんです。ただ、オーストリアはシュタイナーによるビオディナミ農法の発祥の地ですし、職人気質で精度の高い仕事をすることでも知られます。このように造り手のレベルが非常に高いこともあり、現在、大きな注目を集めています」

ゼップ・ムスターという造り手は、オーストリアの黒ぶどうとして根付いている「ツヴァイゲルト」を、「ブラウフランキッシュ」と「ザンクトローレン」を交配することによって創り出した醸造家でもある。土と植物の生命力を保つことを第一に考え、厳格なビオディナミ農法を実践。亜硫酸をほとんど添加しない、ナチュラルワインを醸している。亜硫酸を使わずとも、生きた酵母やバクテリアがお互いに共生する段階までバランスがとれる段階に入るとすごく安定するのです。
このワイナリーでは、一定期間静置し、その段階まで待つということをしっかりと実践しています。だから、ナチュラルでありながら、非常にスムースでエレガントな味わいに仕上げられるのです。ニューワールドのナチュラルワインでは、なかなかそれだけの時間的、経済的余裕がなく、早めに出荷してしまうため、ナチュラルワインのいやな面が出てしまうこともある。それがまったくないのが、ゼップ・ムスター ツヴァイゲルトの魅力の一つでもある。
さっそく試飲してみると、液体の粒子が非常に細かいようななめらかさや丸みを口の中で感じ、瞬時に細胞のすみずみにまで染み渡るようだ。ピュアでクリアーなのに、凝縮した果実感は驚くほどで、熟して穏やかになったタンニンが印象的だ。

「亜硫酸というのはある種の膜のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。少なければ少ないほど、その膜に小さな穴がたくさんあいているような状態といえ、膜への浸透が早いのです。だから、体中に浸透するように感じるのです。また、このしみ込む力は人間の体に限ったことではなく、食材にも言えること。重い料理には重みのあるワインを合わせるのが一般的なセオリーでしたが、ナチュラルワインの場合、しみ込む力があるので、重さを合わせる必要がありません。ガツンとパワフルなステーキにも、ゼップ・ムスター ツヴァイゲルトならOKです」と梁さん。
ナチュラルワインの魅力はそういうことだったのかと納得である。ともすると相反するナチュラル感とエレガントさが見事に共存した1本だ。
Photograph:Makiko Doi