お酒
ひとりの天才が醸す“魔法にかかったような味”
エレメント・ワイナリー ピノノワール
【今週の家飲みワイン】
2019.03.01
インターナショナルに活躍するソムリエの梁 世柱さんによる、ワイン指南。自宅で気軽に飲める、お手頃でいて本格派な一本を紹介する。
造り手のクリストファー・ベイツはシェフであり、マスター・ソムリエの資格を有し、さらにワイナリーの経営者でもあるという、まさに天才。幼少時代から料理に興味を持ち、世界屈指のコーネル大学ホテル経営学部に進学し、シェフとしての経験を積む。そのなかでワインに興味を持ち、ドイツ、イタリアでワイン造りを学んだ。
帰国後はホテルのGMを務めたのち、故郷であるフィンガーレイクに戻り、2005年に父親とワイナリーを設立。2013年にはマスター・ソムリエの資格を取得し、2016年には妻と14席のレストラン「F.L.X Table」をオープン。なんとUSTodayで全米ニューベストレストランの第1位に選ばれたというのだから、これはもう驚異というほかない。シェフでマスター・ソムリエ(世界でたった249人!)の資格を持つ人は世界で唯一なのだそう。
「何より造るワインが文句なしにおいしいのです。ぶどうは完全なオーガニックで栽培し、フィンガーレイクというテロワールをきちんと反映させた造りをしています。アルコール度数も12%を切るくらいに低く、決して淡く作っているわけではないのに、結果として実に軽やかな仕上がりになっている。そのあたりが、冷涼な地域ならでは魅力と、彼のセンスによるものなのでしょう」と梁さん。
ピノノワールは自然酵母で発酵させ、最初の1年は亜硫酸を一切添加せず、500リットルの古樽で澱と一緒に24カ月熟成させる。結果、華やかな香りを放つ、旨み分に富んだジューシーな味わいが特徴となっている。梁さんは、サーモン、かつお、まぐろなどの赤みの魚や柔らかな豚肉に合わせるそうだ。
「アメリカのトップレストランでは必ずといっていいほどオンリストしている、ニューヨーク州を代表するワインであるばかりか、州を飛び越えて、全米で最高クラスのワインになりつつあります。それがこの価格で購入できるのはとてもラッキー。あっという間に入手困難になると思います」と梁さん。価格高騰の前にぜひ試してみたい。
Photograph:Makiko Doi