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FASHION VIEW
2019 AW PITTI IMMAGINE UOMO 95
イタリアン トラッドの現在。

2019.03.27

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第95回〝ピッティ・イマージネ・ウォモ〞(以下ピッティ)が、1月8日から11日にかけてイタリアのフィレンツェで開催された。

ピッティは、年2回開催される世界最大級のメンズファッションのトレードフェアで、今回は来季の秋冬コレクションをいち早く発表。4日間の総来場数は約3万6000人を記録し、このうちバイヤー数は2万3800人に上り、海外バイヤーも昨年比で9100人増加した。ちなみに日本人バイヤーの来場数は前回より減少したものの、トップのドイツに次ぐ2位。依然、国内のファッション業界からの高い注目度を裏付ける。

傾向として見受けられたのは、かつてのクラシコイタリア全盛期のようなドレッシーなスタイルから、スポーティーで機能的なカジュアル化がさらに加速していることだ。来場者でもタイドアップしたスーツ姿は影を潜め、ジャケットにニットやスニーカーが大半を占める。それはいまという時代を映し出し、社会の変化とともにファッションでも世代交代が着実に進んでいることを示している。

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歴史の歩みと地形が生んだ多彩な文化と独立性

会場であらためて感じたのは、イタリアファッションの豊饒さだ。同じ国であっても北と南ではスタイルが大きく異なる。イタリアと同様に日本も縦に長いが、ファッションは画一化している。どうして地域ごとの違いが生まれ、収斂(しゅうれん)することなく、共存共栄するのか。そうした多様性にこそ人々を惹きつけるイタリアファッションの魅力があるのではないか。

そんな視点から取材を通してわかってきたのは、手仕事によるサルトリアの文化はまず南で生まれ、小規模ながら技術がより熟成していったこと。やがてそれが北に移り、工業化という進化を遂げ、国際市場への対応と量産が進んだということだ。

だがそれもファッション産業としての発展プロセスを追うに過ぎない。背景には固有の歴史であり、地域の自然環境、文化、気質などより複雑な要素が関わっているはずだ。そこでそんな疑問をピッティ主催団体エンテ・モーダ・イタリアのアルベルト・スカッチョーニCEOに投げかけてみた。

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アルベルト・スカッチョーニ氏はフィレンツェ出身。フィレンツェ大学卒業後、ローマ大学で博士号を取得。ファッション業界で数々の要職を歴任し、業界きってのしゃれ者としても知られる御意見番だ。

「イタリアの歴史は古く、その間さまざまな国の影響を受け、移民もたくさんいます。ファッションにおいても北イタリアはオーストリアやイギリス、南はアラブやスペインの影響を強く受けています。それぞれの個性を残し、南は温暖な気候もあって素材は軽く、色を多用。形も柔らかく、いちばん顕著なのはナポリスタイルですね。一方、北で言えばミラノはイギリスの影響から生地は重く、形も硬め。色も落ち着いたトーンです」

このほかにも北と南の中間に位置し、スタイルをミックスしたフィレンツェであり、さらに南のプーリアや、北にもリグーリアのようなそれぞれ独自性をもった地域があり、イタリアの多様性を構成しているという。

「さらに歴史をさかのぼれば、イタリアには小さな地域が共存し、それが紀元前2世紀にローマ帝国としてまとまりますが、崩壊後は19世紀にようやくイタリア王国が生まれ、現在の共和国となったのも大戦後です。ですから心情的には独立した地方の集合体という意識が強く、それがファッションにもつながっているのでしょう」

たとえば食文化からも一目瞭然、とスカッチョーニ氏。各地に名物料理があるだけではなく、シンプルなトマトソースでも地域で味覚が異なるという。それだけ生まれ育った土地の生活文化や伝統への敬愛と誇りがあるのだろう。

そして彼らにとっては食と並び、服も生活を楽しむうえで欠かせない大切なアイデンティティーであるに違いない。そんなファッションとの向き合い方もイタリアらしいと思う。

その印象とともに、独立性を大事にしているからこそ、互いを認め合うのでは?と尋ねると、「でも競争心はとても強いですよ」と笑う。

「ナポリのサルトリアは自分たちが一番だと思っているし、ミラノもフィレンツェもみんな自分たちがいちばんエレガントだと思っています。でもそのライバル心が全体のレベルを上げているのです」

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多様性のなかで個性を磨くイタリアに学ぶこと

ひとつ気になったことがある。世代交代によってより現代的にクロスオーバーした新進ブランドも登場している。それは地域の個性を薄めることにならないか。

「いまサルトリアのクライアントは、国内からインターナショナルに広がっています。そのなかで多彩なリクエストを受けることで、作り手は新たなインスピレーションを得ています。そこで影響を受けつつ、伝統を守りつづける自覚も高まっています。それがさらに彼らを進化させるでしょう」とスカッチョーニ氏は確信する。

世界と直接つながり、受け入れることで、さらに個性を磨く。そんなイタリアン トラッドの未来像が見えてくる。社会が不寛容となり、分断するいま、多様性を尊重するイタリアに学ぶことは多い。それは決してファッションだけではないだろう。

Photograph:Yoshihiro Kawaguchi(STOIQUE)[Studio], Mitsuya T-Max Sada[Report]
Styling:Yoichi Onishi(RESPECT)
Hair & Make-up:Yurie Taniguchi
Illustration:Akira Sorimachi
Text:Mitsuru Shibata
Coordinate:Shiho Sakai

※アエラスタイルマガジンVol.42からの転載です

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