紳士の雑学
スーツの種類|利用シーンから選んでみた
2019.06.19
スーツ売り場を見渡せば、実に多彩なバリエーションがあります。基本のきを謳う本企画では、大雑把に言って、そうしたスーツがどのような場面に向くのかというお話をします。第1回では形、ボタン、生地を、第2回ではディテールについて触れました。第3回となる今回は、シーンに合わせた着こなしについて説明したいと思います。クールビズなどの影響もあって、細かなルールは徐々に廃されている傾向ですが、スーツの知識をきちんと弁えることで、レベルの高いスーツの着こなしを楽しむことができるでしょう。
ビジネスの普段使いに適したスーツとは?
仕事着ということを前提と考えれば、スーツは共通言語のひとつ。装いそのものが、互いに快くコミュニケーションを図るための手段となりえます。カジュアルであれば、自由度は高いですが、顧客を相手にするビジネスとなると、その共通言語としての役割をある程度把握しなければならないのです。
大前提としてビジネスユースの基本色は、ネイビーとグレー。装飾を控えめに見せたい向きには、無地(織り柄を含む)や幅の狭いストライプ、色のトーンはダークなものが推奨されます。
クラシカルで風格のあるダブルブレステッドは、フレッシュマンは避けたほうが無難かもしれません。スーツに造詣の深い上司や顧客に無用な不快感を与えてしまう可能性が否定できないからです。ただし、服飾業界においてはその限りではないでしょう。
普段使いとなると、毎日の着用でケアについても気になるところ。昨今は、自宅の洗濯機で洗えるウォッシャブルや、シワや汚れのつきにくい機能素材のものなど、便利な仕立てのスーツが増加しています。また、自分の快適性を考えると、ストレッチ素材や吸汗速乾素材、あるいは清涼機能を保持したスーツも多数。上記のビジネスの前提に則り、取り入れていくのが得策といえるでしょう。
共地の上着とパンツが別売りされる、いわゆるセットアップスーツが流行中。この類には、前述した“機能スーツ”が多く見られます。出張やノータイでも構わない職場ならば、写真のように「着崩した」装いも目指せます。
なお、後述しますが、ブラックスーツは冠婚葬祭などのフォーマル服として売られていることが多く、ビジネスにおいてはあまり一般的でないことも付記しておきます。
ここぞ!というときの商談・会食用のスーツに
他社との交わりがある場合こそ、スーツ着用の本懐があります。本企画に述べた「共通言語」という意味合いが特に強まるのは、「商談・会食」などのシーン。信頼感が重要となります。必要以上に飾る必要はないですが、無味乾燥に着こなすよりも、スタイリッシュさを演出したほうが、好印象を与えられるでしょう。
その点で、前述したデイリースーツとは別に、「ここぞ」のシーンで着用する一張羅を用意しておくことを推奨します。おおまかに言うと、落ち着いたトーンのネイビーやグレーの3ボタン。織り柄ないしは、薄めの細いストライプで、肩パッドや裏地・芯地の入った、オーソドックスな仕立ての1着です。
一張羅とするならば、とりわけサイズ感が重要。近年は、値ごろ感のあるオーダースーツも多いので、あつらえてみるのもいいでしょう。
就職活動のリクルートスーツに必要なこと
一般的に言って、ビジネスマンを目指すリクルーターに求められるのは、個性の演出ではなく清潔感。そして、社会の共通言語である「装いのマナー」を弁えることができるか、という点にあります。もちろん例外的な企業もありますが。
色柄は、いわゆるリクルートスーツと呼ばれるダークネイビー、チャコールグレー、ブラックの無地に間違いはないでしょう。業界によって多少の違いはありますが、ブラウンやベージュ、ライトグレーなどの色物、ストライプ、チェックなどの柄物といったカジュアルな要素は概してNGです。
爽やかさにおいて有利に働くネイビーですが、グレー同様に明るすぎるとカジュアル感が増します。ブラックについては、過剰に光沢があるものや織り柄のあるものはNG。パーティ服のような浮ついた印象を与えてしまうためです。
当然シングルスーツで3ボタン、3ボタン段返り、2ボタンに限られます。クラシカルなダブルブレストやスリーピース、遊びのあるシングル4ボタンなどは避けましょう。
冒頭のとおり、清潔感が第一。袖丈や裾丈が長すぎないか、フロントがきちんと締まるかなど、だらしない印象を与えないよう心がけるのが肝要です。ジャストサイズのスーツを選んだら、シワの有無、パンツのクリース(プレス線)を確認し、ビシッとアイロンをかけること。社会人としての万全を期して、スーツと付き合う第一歩を踏み出しましょう。
フォーマルという視点
一般的には冠婚葬祭に使用されるフォーマル服としての印象が強いブラックスーツ。ビジネスにおいてはNGでないものの、一歩間違うと「冠婚葬祭?」といった印象を与えかねない高度な色であると認識しておきましょう。
その点を踏まえると、フォーマルの装いについて知っておくことは重要。実際に可能性があるビジネス上の冠婚葬祭(レセプションや歓迎会、取引先の冠婚葬祭)や、ビジネス服への応用、あるいは、反面教師として、など、直接的にも、逆説的にも応用可能だからです。
ただし、フォーマル服の装いは、なかなか奥深いもの。ここでは、基本のきと呼ぶべき、概要をお伝えします。
<タキシードとは?>
もしパーティに招待され、招待状に「ブラックタイ」とのドレスコード表記があれば、それはタキシードの着用を意味します。夜の礼服で、黒いボウタイとイカ胸シャツが必須で、カマーバンドないしはウエストコート(ベスト)を着用。胸ポケットには白いリネンチーフを挿し、オペラパンプスを履きます。
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<結婚式で着るブラックスーツ>
無地が基本ですが、織り柄のストライプなどもOK とされています。ビジネス感を出さない着こなしがポイント。ボタンダウンシャツを避け、白やシルバーのソリッドタイ、あるいはボウタイなどを締めたり、光沢のあるシルクチーフを胸ポケットに挿したり、着こなしでフォーマル感を加えます。
二次会の場合は、相手にもよりますが、色のタイや、柄のベスト、柄入りのボウタイなど、より華やかに、カジュアルダウンも可能です。
<葬儀で着るブラックスーツ>
装飾を排除するのが一般的な考え方なので、無地に限ります。フロントはシングル、ダブルは不問。ただし、ピークドラペルやショールカラーなどはNG。コットンポプリンの白シャツ、黒無地のシルクタイ、ストレートチップの紐靴で。ボタンダウンやダブルカフス、二枚襟、織り柄生地などの装飾的なシャツ、ニットタイや光沢の強いタイはNG。胸のチーフも挿しません。
まとめ
スーツと一口に言っても、シーンによってさまざまなルールやマナーがあります。状況にお応じた選びや着こなしが大事です。そしていずれのシーンでも、サイズとメンテナンスに注意して、清潔感を出すように心がけましょう。
①デイリーには、快適性を重視してOK。ただし、相手のある状況では、「ここぞ」の時用に一張羅を用意しておくのも大事。
②リクルートスーツは、社会との共通言語。その入り口としてルールやマナーを弁えることで、社会人としてのスタートラインに立つことを意識します。
③フォーマル服の存在を認識すること。特にブラックスーツは、フォーマル服の要素が強いため、着慣れないうちはビジネスに選ばないほうが無難。
Edit:Naoki Masuyama,Masashi Takamura
Text:Masashi Takamura