週末の過ごし方

井戸から学ぶ、島の歴史。
「星のや竹富島」が目指すソーシャルグッドな観光の在り方。

2023.03.14

井戸から学ぶ、島の歴史。<br>「星のや竹富島」が目指すソーシャルグッドな観光の在り方。

社会によりよい取り組みを行うソーシャルグッドなホテルを、トラベルエディター伊澤慶一が紹介。今回は沖縄県八重山地方にある「星のや竹富島」を訪問。水をテーマにした環境保全ツアーに参加し、竹富島の成り立ちやゴミ問題を学ぶことで、少しだけだが自分と島との距離が縮まった気がした。

石垣島からフェリーで約10分。サンゴ礁が隆起してできた周囲9.2kmほどの小さな島で、「星のや竹富島」はまるで本物の集落かのように溶け込んでいる。圧倒的な非日常を提供する「星のや」ブランドの施設は全国に6カ所あるが、竹富島の世界観は特に際立っていると、個人的に思う。その理由は、沖縄の原風景が残ると言われる島の伝統家屋を見事に踏襲した客室群、そして島独特の歴史文化を現代に紡ぐべく用意した数々のアクティビティを見てもらえれば一目瞭然。以前滞在した際、シーサーが見守る琉球赤瓦の屋根の下、隣の宿泊客の三線(さんしん)の音色が南風に乗って聴こえてきたときは、自分がまるで集落で暮らす島民になったかのような、心地よい錯覚に陥ったものだ。

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本物の集落を参考に、手積みの石垣「グック」やサンゴの白砂が敷かれた小路を踏襲。琉球赤瓦の客室(全48棟)も、竹富島の伝統建築を踏襲した木造平屋造りになっている。
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竹富島で縁起がよいとされる南風(ぱいかじ)を迎え入れやすいよう、客室の南側に大きな窓を設置。すべて離れになっており、広さも53〜66㎡と十分な広さがある。
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    島の樹木の名前を冠した「ガジョーニ」「ズーキ」「キャンギ」、3タイプの客室。窓を全面開放できるリビングや、午睡に最適なソファは全部屋共通。
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    「ガジョーニ」と「ズーキ」は部屋の中央に白の大きなバスタブが置かれているのが特徴。浴室の窓も開放すれば、南から北へ風通しも抜群だ。

ほかにもゴザやコースター、玩具などを島の植物を素材にした「竹富民具 手業(てぃわざ)体験」や、竹富伝統の足踏み式織り機で栞(しおり)を作る「織りあそび」、帆を張った木造船「サバニ」でのサンセットクルーズなど、島の文化に触れ合うアクティビティを重ねていくうちに、自然と体が島時間に慣れてくる。この不思議な感覚をぜひ体験してもらいたく、私もいろいろなところでおすすめしているお気に入りの宿だ。

そんな「星のや竹富島」で、2022年5月から「ふれあいまいふなーツアー」というツアーが始まった。こちらは竹富島の文化や自然環境の保全を目指す一般財団法人 竹富島地域自然資産財団(以下、財団)とパートナーシップ協定を結び、一緒に作りあげた環境保全ツアー。水をテーマに竹富島の歴史を学び、持続可能な資源や暮らし、さらには観光の在り方についても、従来のアクティビティよりもさらに“学ぶ喜び”を味わえる内容になっている。

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財団の常務理事、水野景敬さん。美しい白砂ビーチが広がる竹富島だが、昨今は海洋漂着物の増加や処理が課題になっており、「本ツアーを通じて一緒に考えてもらえたら」と水野さんは話す。
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島の西側にあるコンドイビーチ。この美しい海に魅了され、財団の水野さんも30年前に移り住んできた。沖縄でも指折りのビーチだが、年配の島民は「昔はもっときれいだったさ」と話すのだそうだ。

ふれあいまいふなーツアーはまず、竹富島の集落内にある井戸探訪からスタート。平坦で山や川のない竹富島では水は大変貴重な存在で、1976年に石垣島からの海底送水によって水道水が出るまでは、主に地下水の湧く井戸から水を確保していた。島にはまだ20ほどの井戸が残っており、この日は特に保存状態のよい「仲筋井戸(ナージカー)」と、その隣にある「水道記念碑」を見学。ここでは星のや竹富島のスタッフが案内をしてくれるのだが、この島で水がいかに大切かを知ることは、竹富島の人々の営みや集落の成り立ち、農業、さらには祭りを理解することにもつながっていて大変興味深い。

井戸見学のあとは西側のコンドイビーチへ移動し、ビーチクリーンを行う。遠浅の海は誰もが言葉を失う美しさだが、浜辺に視線を移すと海洋漂着ごみ、特にプラスチックやペットボトルが散見され、私たちが何げなく消費している資源について考えさせられる。ツアーでは資源となりそうなゴミを回収し、その後財団の施設に立ち寄って、海洋漂着プラスチックを原料としたウミガメ型のキーホルダーを作る。本来であれば捨てるだけの廃棄物が、価値あるものに生まれ変わる「アップサイクル」の循環を体験でき、非常にソーシャルグッドな内容になっている。

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島の中心部に残る仲筋井戸。竹富島では年間を通じて数多くの神事が執り行われており、そのなかでも井戸は神聖なものとして今でも祀られている。
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わずか数分で袋いっぱいのゴミが集まる。島ではボランティアの方々が定期的にコンドイビーチを清掃してくれているおかげできれいに保たれているが、それでも限界はあるそうだ。
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色別に分けられたプラスチック破片を機械にかけ、溶かして型に流し込み、ウミガメ型のアクセサリーへ。息子は毎日の幼稚園登園バッグに付けるほど喜び、とてもいい体験をさせてもらった。
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    ツアーが終了すると「まいふなーツアー参加賞」がもらえる。これを提示することで活動が島の人々にも伝わり、島民との交流のきっかけになる仕組みに。
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    飲食店ではドリンク1杯が無料サービスに。ほかにもカフェでおやつのプレゼントやショップでの割引など、集落の協力店で恩恵を受けることができる。

ちなみにウミガメ型のキーホルダーを製作すると、「まいふなーツアー参加証」が発行される。これを島内の飲食店やお土産物屋などの協力店で提示すると、ツアー参加者は何かしらのお得なサービスを受けることができる。実は「まいふなー」とは、竹富島の言葉で「お利口さん」の意味。島の歴史を学び、ゴミをアップサイクルする「まいふなー」な活動を通して、島の持続可能な資源や暮らしについて考え、さらには島民とも交流を楽しんでほしいという星のや竹富島の思いが込められている。実は今回、私は4歳の息子と一緒にツアーに参加させてもらったのだが、「親子での旅育」という観点でも非常に魅力的な内容だと感じた。

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2017年から始まった畑プロジェクト。敷地内にあるなにげない区画だが、ここに星のや竹富島のソーシャルグッドなビジョンが詰まっていると言っても過言ではない。

島の環境保全や文化継承のため、さまざまなアクティビティを催行している星のや竹富島。実はそうしたソーシャルグッドな活動は、SDGsという言葉が世間に広がるずっと前から、ゲストの目に見えないところで行われていた。2017年には竹富島特有の畑文化や伝統作物を継承する「畑プロジェクト」を立ち上げ、施設内の畑で育てた芋や命草(ぬちぐさ)をおやつやハーブティーとしてゲストに提供したり、粟(あわ)を島内最大の祭事「種子取祭」へ奉納したり、クモーマミ(小浜大豆)を材料に地元の子どもたちと豆腐作りを行ったり、農作物の成長とともに少しずつ時間をかけて、島に根付いた活動に取り組んでいるのだ。

財団の水野さんは話す。「目に見えない部分での取り組みも、星のやさんにはもっと発信してもらいたい。宿泊客に向けて啓発してくれるおかげで、島を守る活動の認知度も少しずつ広がっている」

冒頭、星のや竹富島は本物の集落かのように溶け込んでいると書いたが、それは伝統的な建築様式を採り入れた外観のみの話ではない。施設で働くスタッフの、島を大切に想う気持ちは島民となんら変わらず、同じ未来を目指して歩んでいる。ソーシャルグッドな観光の在り方が日本各地で議論されはじめている今、星のや竹富島の取り組みは多くのホテルにとって手本となるはず。私はそう考えている。

星のや竹富島
■アドレス 沖縄県八重山郡竹富町竹富
050-3134-8091(9:30〜18:00)
https://hoshinoya.com/taketomijima/

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