週末の過ごし方
世界を幸せにする!?
餃子の幸福論。
2024.06.07
先日、東京の西側にある餃子店に行く機会を得た。ここは中国麺点師の資格を持つ店主(姉弟)が切り盛りするカウンターのみのお店。餃子を注文すると、その場で手際よく麺棒で生地を伸ばし、餡を包み、指でぎゅっと押し合わせ、丁寧にひとつずつぷくぷくとした餃子を完成させていく。カウンター越しにその様子を眺めているだけで眼福だが、包みたてのぷっくりとした餃子が、お湯に通すことでつやんつやんの水餃子となり、それが目の前にやってきたときの幸福感たるや。目にも麗しい水餃子たちは、食べた人をその場で笑顔にしてしまう。まさに口福な瞬間。思わず一緒に食事をしていた友人だけでなく、隣に座っていた初めましてのご婦人たちとも、その感動と歓喜を共有してしまったほど。五感で楽しむ餃子から生まれる会話のバイブレーションは、ハッピーそのものだ。
また別のある日。甲州街道沿いにある、ご夫婦で切り盛りする餃子専門店へ伺った。ちなみにデートで。メニューはほぼ餃子のみ、という潔さだ。こちらも注文が入ってからお母さんが生地を伸ばし、お父さんがときに焼き、ときにゆで、テンポよく餃子を提供していく。季節限定含め、焼きと水で12種類ほど。素材そのものの味や香りが際立つシンプルな餃子たちは、隣で食べていた気になる彼と、「これが好き」「私はこっちのほうが好み」と、餃子論議が始まる。好きな人と、好きな餃子を語る。ああ、なんて幸せな時間なのだろう。あったかな家族のチームワークがつくる餃子から生まれる会話もまた、幸福そのものだ。
おいしい餃子と、グッドバイブス。「餃子は人を幸せにする」と、私は本気で思っている。
たとえば取材で訪れたポーランド。伝統的なクリスマスの晩餐では、メインの鯉料理の前に、ポーランド式餃子の入ったボルシチがサーブされる。また中国では「餃子の皮が富を包み、それを食べることでお金持ちになる」と、福をもたらす食べ物として旧正月のお祝いの席だけでなく、結婚式などでも餃子が出されるそうだ(出典『ダンプリングの歴史』)。祝いの料理にして、日常食でもある餃子の懐の深さよ! そんな餃子の魅力に開眼し、『HAPPY GYOZA CLUB《来福餃子倶楽部》』をスタートした。餃子を通して、食べた人が口福になり、笑顔が増えれば、きっと世界はもっと幸せになると信じている。
「アエラスタイルマガジンVOL.56 SPRING/SUMMER 2024」より転載
ここには載せきれなかった写真は、アエラススタイルマガジン VOL.56にてお楽しみください!
Text: Ai Yoshida