腕時計
スーツは人なり。時計も人なり。
2025.02.12
多様化の時代、今までの価値観が揺らぐこともある。大切なのは、自分らしさ。お気に入りの腕時計とスーツでひと息つければ、いつだって心のうちはハッピーだ。

アエラスタイルマガジンの創刊は2008年、既に16年も前となった。翌年の夏号で、腕時計の特集を初めて掲載している。タイトルは、「時は人なり」。当時は、スピード優先、効率重視、儲(もう)け第一に傾いて、「時は金なり」といった気分が色濃かった。その風潮に抗おうとして、タイトルを付けたのを思い起こす。
スピーディーに動きたくても 動けなかったコロナ禍を経て、時代の気分もビジネスパーソンの働き方もずいぶんと変わった。オフィスに出社するか、しないか。スーツを着るか、着ないか。いざ自分で決めてよいとなると、仕事のスタイルや自分自身の価値観が問われることになる。
例えば、同じ喫茶店で毎日ランチをしてみてはどうだろう。月曜日はコーヒーを飲みながら仕事の予定を整え、週の半ばには大好きなオムライスを食べながら次の週末に思いをはせる。
その日の天候やアポイントメントによって、スーツにタイドアップするのか、ニットを合わせるのか、臨機応変に考えてみよう。アエラスタイルマガジン創刊のころには、「スーツはタイドアップに限る」と提案したものだ。ビジネスウエアの行き過ぎたカジュアル化への警鐘の役割を果たす意図だったと記憶する。時は巡って今となれば、タイドアップするかしないかは、自身で臨機応変に決めてよい。
では、腕時計はどのように考えればよいのだろうか。スーツと腕時計を一貫して取材してきた者として、「腕時計を着けるのはビジネスマナーである」と申し上げたい。ミーティング中にスマホをチラリと見て時刻をチェックする姿は、エレガントでないばかりか、対峙する相手に対してマナー違反であると思う。
グレースーツにメタルブレスレットの腕時計をコーディネートすれば、いっそう知的な印象をもたらす。茶系スーツには革ベルトの腕時計で、落ち着きのある雰囲気をまといたい。
一秒、一分、一時間、一日、一生。ビジネスもプライベートも、前に進めていくもゆっくりととどまるも、決めるのは自分自身である。創刊からずいぶんと時間がたったが、いま一度、申し上げたいと思う。「スーツは人なり。そして、時計も人なり」と。
文・山本晃弘(服飾ジャーナリスト)
「アエラスタイルマガジンVOL.57 AUTUMN / WINTER 2024」より転載
ここには載せきれなかった写真は、アエラススタイルマガジン VOL.57にてお楽しみください!
Photograph: Masanori Akao(whiteSTOUT)
Text: Teruhiro Yamamoto(YAMAMOTO COMPANY)