週末の過ごし方
建築を旅し、感性を鍛える。
「京都モダン建築祭」への誘い。
2025.10.30
効率や成果を追い求める日々のなかで、私たちは知らず知らずのうちに「感性の筋肉」を使わなくなっている。だが、創造的な発想や柔軟な思考の源は、理屈を超えた“美意識”との対話にこそある。建築を訪ねるという行為は、その筋肉を静かに呼び覚ます時間だ。建築は、時代の空気と人の思想が形となった記憶装置。向き合うことにより、私たちは過去と現在を、そして人と空間の関係を体で感じ取ることができる。
そんな「感性の旅」に出るなら、京都ほどふさわしい場所はないだろう。古都の陰影の中に、近代の息吹が確かに混ざり合う街。クラシックとモダンが重なりあう風景は、建築というフィルターを通すと、まったく新しい表情を浮かばせる。
例えば映画『国宝』のロケ地として話題の先斗町歌舞練場は、そんな京都らしさの象徴だ。木造の格子と洋風の装飾が呼応し、静寂のなかに緊張と華やぎを共存させる。
祇園甲部歌舞練場もまた、和と洋がせめぎ合う建築だ。舞のための劇場建築に潜む優雅な構造美は、伝統が近代、そして現代を取り込み成熟していった京都の“知恵”を感じさせる。
東山方面へ足を延ばすと異国の風をまとった石造りの洋館、五龍閣と出会える。西洋への憧れと、日本人の繊細な調整感覚が交錯する空間。大理石の暖炉、ステンドグラスに差し込む光の揺らぎ……。そこには、大正ロマンが夢見させた「未来の京都」が息づいている。
そこからほど近い旧御所水道ポンプ室では、機能美が建築美に転じた光景を目の当たりにすることに。近づいてディテールを確かめると、積み重ねられた煉瓦と煉瓦の目地(隙間)にすら丁寧な職人の“仕事”が見て取れる。
少し足を伸ばし、京都御所にほど近い大丸ヴィラへ。建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズによるこの邸宅は、クラシカルな洋館でありながら、どこか日本家屋のような温もりをまとう。開口部から見える庭の緑、光と陰の設計。その静けさは、建築が人を包み込むという本来の意味を思い出させる。
さらに、京都大学人文科学研究所分館(旧東方文化学京都研究所)も見逃せない。石造による重厚な構えは、アカデミズムの精神をそのまま形にしたようだ。縦に長いステンドグラスの美しさは目を見張るものがあり、中庭から眺めた知を宿す建築の存在感に思わず背筋が伸びる。
さて、感性の旅の休符となる宿を選ぶなら、現代建築の粋を体現するザ・ゲートホテル京都高瀬川 by HULICがいい。かつて小学校だった校舎をリノベーションしたこのホテルは、過去を抱きながら今を生きる建築の好例だ。学び舎の面影を残す廊下や階段、時間の層を感じさせる天井高……。宿泊そのものが、古くて新しい京都の“いま”を感じる体験となるはずだ。
名建築を訪ね歩き、見つめ、佇む時間――。それは、視野を広げ、思考を深め、感性を研ぎ澄ますひとときである。心の中に自ずと生まれる「余白」が、われわれビジネスパーソンにもたらす効果は計り知れない。折しも散策に頃良い季節。今週末から来週は、いざ京都へ!
NEWS!
2025年京都モダン建築祭が11月1日よりスタート。
上記施設を含む過去最多129件が一斉公開!
2025年11月1日(土)〜9日(日)に、京都市内各所で『2025年京都モダン建築祭』が開催される。現存する魅力的なモダン建築が一斉公開され、この期間でなくては入れない施設やスペシャルな催しも多数。公式サイトをチェックして、感性を揺さぶる知的なインプットを楽しみたい。
https://kyoto.kenchikusai.jp/
取材協力/京都モダン建築祭PR事務局
Text:AERA STYLE MAGAZINE